成功した企業は、「小さく賭けて、素早い失敗、素早い学習」というリトル・ベッツ方式を繰り返している。連載1回目で紹介したスターバックスとアマゾンも、2回目のコクヨ、3回目のピクサーもみんなそうだ。とはいえ、読者のみなさんの職場は、リトル・ベッツ方式を採用していないかもしれない。そんな会社でリトル・ベッツ方式を実践するにはどうすればいいのか?など、担当編集者が聞きたかった3つの質問を著者のピーター・シムズ氏にぶつけてみた。

 『小さく賭けろ!』の著者、ピーター・シムズ氏は著書の中で「この世界で唯一確実なのは、不確実さだ」と強調している。テクノロジーの急速な進歩とインターネットの登場によって、ユーザーの好みはどんどん変わり、ライバルは世界中のあらゆる場所から現れる。あまりにも動きが速く、過去の実績を分析して、「こういう現象が起きたら、次はこうなる」というような予測はうまくいかないということだ。だからこそ、試行錯誤のリトル・ベッツ(小さな賭け)方式で、失敗したり、そこから学んでいったりする必要がある。

 しかし、リトル・ベッツ方式を実践できる組織は少ない。逆に、「前例はあるのか?」と聞き、失敗の責任を取りたくないと思うあまりに、前例がないことには尻込みする上司が多い。現場が「イケる!」と思っても、なかなかチャンレジさせてもらえないこともある。そこで、ピーター・シムズ氏にこう聞いてみた。

読者が保守的な企業の社員(経営陣ではない)だとしたら、リトル・ベッツ方式をどう役立てられるでしょうか?

シムズ:われわれは働く環境によって制約を受けます。これは私が本書でも1章をもうけて述べたところですが、リトル・ベッツの方式は日常業務のやり方を「少し改良する」など、どんなタイプの仕事にも適用可能です。「小さな賭け」が「小さい」のは、誰もがどこでもどんな環境においても実践できるためなのです。

 確かに『小さく賭けろ!』の第10章には、企業や組織ではなくても、誰でもどこでも「小さな賭け」ができるという話が書かれている。たとえば、マイクロソフトのスター社員がうつ状態になり退職して起業し、日ごろからさまざまな小さな賭けをした後に、人気ボードゲームを作り成功した例がある。「人生そのものが創造的プロセス」と強調するシムズ氏は、日ごろの小さな工夫も、生活の試行錯誤もリトル・ベッツ方式を実践できる場であると言うのだ。

「健全な不安」を持ち続けよう

 うまく行かないときは試行錯誤を続ける人は多いが、一度成功すると過去の成功体験に縛られてしまいがちである。先を予測できない世の中になっているのに、「昔はこうやってうまくいった」という意識が捨てられず、現場の行動にブレーキをかける役員や、昔の実績を必要以上に分析してから行動しようとする上司の話はよくありがちだ。

 逆に『小さく賭けろ!』の中には、試行錯誤を続ける大物コメディアンや有名建築家が登場する。米国でもっとも人気のあるコメディアンの一人であるクリス・ロックは、売れてからも近所の小屋でウケないのを覚悟でギャグを試し、ウケたギャグを全国ツアーや全国ネットのテレビで披露している。ロスアンゼルスのディズニー・コンサートホールの設計などで有名な建築家のフランク・ゲーリーはいつも、紙や段ボールなどで30~50種類もプロトタイプを作って試行錯誤を繰り返す。彼らが成功しても試行錯誤を続けられるのはなぜなのだろうか?