前回では、海外の人材に対して、日本人ITエンジニア一人ひとりが、個々の技量や能力、性格に合った戦い方、変革の戦略を検討する必要性を指摘し、変革方法として下記の2つを挙げた。

その1 自己のエンジニアタイプ、得意技術を絞り込む
その2 就業するドメインやエリアを絞り込む

 今回は2つ目の「就業するドメインやエリアを絞り込む」について詳しく解説しよう。

ライバルの少ない領域を探せ

 これは、いかにライバルを少なくするかがポイントだ。ドメインとは事業領域であり、エリアは地域を表している。

 基本的な考え方として、新たに選択するなら避けた方が無難な事業領域は、日本が従来得意としてきた家電製品などである。途上国との競争がますます激しくなるからだ。

 むしろ今は小さくてもこれから拡大する事業領域や、日本独自のニーズに支えられた領域に絞れば、海外の企業やエンジニアたちとの対決は避けられる。

 例えば、前回の「具体的な変化の認識」の(3)で例に挙げた「医療や介護福祉」などは、高齢化が著しい日本でニーズが高く、ITによる解決を図れれば希少価値のあるスキルを保有することになる。大いにやりがいもある。

 また、第一次産業のIT化や再生エネルギー関連なども、市場はまだ小さいが確実にニーズがある。日本が直面している食料自給率の低さや、原子力エネルギーへの拒否感の強さは、将来は世界的な問題になるだろう。今のうちに取りかかることで優位性を確保することが重要だ。

 地域の選択に関しては、個々の語学力やコミュニケーション能力によって選択枝が変わる。独身で語学に自信があれば海外に出て様々な経験を積むのもよいだろう。

 ただし米国に就業したい場合はIT力と英語力のハードルはかなり高いと思った方がよい(中国やインドの裕福な家庭は、高校から米国留学させるケースが増えている)。むしろ中国やアジアの途上国に活躍の場があると思える。

 アジア途上国の企業は日本のものづくりのノウハウを全て吸収しているわけではないし、日本の市場開拓を目指しているところも多い。中国企業も日本のノウハウを持ったエンジニアがもっと必要だろう。

 身内の話で恐縮だが、私の義理の弟は7~8年前から中国語を勉強し、5年前に中国勤務を希望し赴任していたが、昨年(2011年)ついに中国企業に転職をしてしまった。一部上場のメーカーを辞め、年収は300万円程下がったらしい。それでも中国人の収入基準ではトップクラスで、日本にいるときと比べてもはるかに贅沢な暮らしをしている。

 だが、彼に言わせると転職してもっとも良かったことは「リストラを気にしながら、環境変化に対応できない会社に勤めているストレスから解放されたこと」だという。「今は数少ない日本人として企業への貢献度を高く評価されている毎日がとても楽しい」と言っていた。

 外国語は苦手な人は、海外との技術競争から離れたエリア、すなわち日本の規制や地域に密着した業務エリアに集中することもできる。例えば地方自治体や公益法人などの役所業務はIT化のニーズが依然として高い。競争入札ありきなので高い利益は望めないが、外国企業への参加規制もあり、我々日本人が優位に立てる領域である。

 また、個人商店やサービス業関連、土木設備や水産加工など、日本独自の商習慣の理解が必要かつ小規模商談が中心の領域は、海外企業にとって参入障壁は高いうえ、国内SI大手も参入に消極的である。特に2012年現在は東北地方に重点を置いたITサポートのニーズが高く、政府や地方自治体からの補助金もある。