スウェーデンにあるソニーモバイルコミュニケーションズの開発拠点を徹底取材した。同社のユーザー体験/ユーザーインタフェースの専門家らへの取材を通じて、スマートフォン「Xperia」の開発アプローチに迫る。第2回は、同社ヒューマン・インタフェース・デザインのアートディレクターである今村氏に聞く、ユーザー・エクスペリエンスの定義と実践である。


 ソニーモバイルコミュニケーションズでは、連載1回目に登場した石田氏や今村氏の肩書きに「エクスペリエンス」あるいは「UX」が使われている。これは、魅力的な製品を作るうえでユーザー・エクスペリエンス(UX)がカギだと考えているからだという。

 同社に限らず最近よく使われるユーザー・エクスペリエンスだが、人によって認識はまちまちである。ユーザー・エクスペリエンスとユーザー・インタフェースが混同されて使われていることもある。

 そこで今村氏は、これらの言葉を食事にたとえた記事を基に社内で説明しているという(写真1)。いわく、ユーザー・エクスペリエンスとは「おいしく食べること」であり、そのために用意される器やはし、フォークなどの道具がユーザー・インタフェースということになる。

写真1●今村氏は、ユーザー・エクスペリエンスを食事にたとえる
写真1●今村氏は、ユーザー・エクスペリエンスを食事にたとえる
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 「例えば、シリアル・フードを食べるとき、フォークでもはしでも食べることはできる。でも、スプーンを使った食べやすさとは違うので、食後の満足度のようなものは違ってくる。同じスプーンでも、素材は金属がいいのか、木がいいのか。子どもだったらプラスチックがいいだろう」(今村氏)

 この考えをスマートフォンに転用、「本来ユーザーは、コンテンツを“味わう”ためにスマートフォンを手に入れて操作する。その体験のために、ハードもソフトも存在するという考えに至った」(今村氏)というのだ。

ユーザー・エクスペリエンスも進化する

 ソニーモバイルコミュニケーションズのユーザー・エクスペリエンスは、固定化されたものではなく常に進化しており、OSのようにバージョンがある。

 製品との対応でいうと、2009年に発表した初代の「Xperia X10」(国内の名称は「Xperia SO-01B」)は、最初のバージョン「UXP1」に準拠した。その後、UXP2とUXP3を経て、現在取り組んでいるのが「UXP NEXT」だという。1~3に続く番号にしなかったのは、連続性を打ち出すためで、出来上がった要素は順次実装しているという。一部は2011年末ころから実装が始まっている。

 UXPの開発においては、開発拠点の再編を試みた。以前は、東京のほかスウェーデンのルンド、中国の北京、米国のシリコンバレーと地域ごとの開発拠点が、地域ごとに特化した製品設計をしていたが、現在はこれらの拠点が、協業しながらグローバル共通のプラットフォームを作るように変更したのだ。