韓国の地方自治体は、業務アプリケーションの開発を政府機関に任せている分、独自の政策に沿った行政システムの調達に注力できる環境にある。なかでも、独自システムの調達に積極的な自治体の一つが、ソウル特別市のベッドタウンとして人口63万人を抱えるノウォン区だ。同区の行政システムを統括する電算運用チーム長のジョン・ヒャンス氏に、地方自治体のシステム調達体制について話を聞いた。

(聞き手は浅川 直輝=日経コンピュータ



ソウル特別市ノウォン区 電算運用チーム長
ソウル特別市ノウォン区
電算運用チーム長

ノウォン区のような地方自治体は、中央政府とどのようにシステム調達を分担しているのか?

 ノウォン区が持つ情報システムは大きく分けて二つある。一つは、中央政府の機関である韓国地域情報開発院(KLID)などがソフトを提供するシステム(前回記事参照)。もう一つは、ノウォン区が独自に導入したシステムだ。

 住民登録や地方税など、自治体共通業務に向けたアプリケーションソフトは、中央政府が無償で自治体に配布している。ハードウエアは4割は国が、6割は自治体が負担する。システムの維持管理は中央政府に委託しており、ノウォン区が中央政府に委託費を支払っている。

 自治体が独自にシステムを開発する場合は、まず中央政府の行政安全部に報告する。行政安全部は、他の自治体で似たようなアプリケーションソフトの開発事例がないかを調べ、もしあればソフトの利用を勧めてくれる。お勧めのソフトのリストアップもしている。

ノウォン区ではどのようなシステムを独自に調達しているのか?

 ノウォン区は教育や福祉、区民の政治参加に力を入れている。調達する情報システムも、こうした施策に沿ったものが多い。

 例えば、学生が英会話のレッスンを受講できるテレビ電話システムを導入し、2011年から区民向けにサービスを始めた。サーバーなどのハードウエアを区が提供し、教育内容は民間に委託している。

 区の補助金と合わせ、利用者の負担額を民間の8分の1ほどに抑えた。生活保護世帯に優先して提供するなど、教育と福祉の両面にかかわる施策で、民業圧迫には当たらないと考えている。既に約4000人の区民が利用している。

 区民の政治参加に向けては、議会で検討中の政策や予算の編成について、区民の意見をインターネットで公募するシステムを構築した。

 システムの運用を始めた2011年当初は、こうした区民参加の施策について議員から反発もあった。とはいえ議員にとっても、自分の政策に区民の賛成意見が集まれば、政策を推進する上で有力な後押しになる。今では、議会、区役所、区民の三者がシステム上で意見交換をしながら、区の予算を編成するという流れが定着しつつある。

 住民の安全を守るシステムとして、区内に524台の監視カメラを設置し、区役所で一括監視できるシステムを構築した。職員はモニターを通じて、火事や犯罪が起きていないかを監視したり、駐車違反した自動車を特定したりできる。区役所内に統合監視センターがあり、警察も含めた16人の職員が3交代で監視している。

システムの導入に当たり、区民のプライバシーにはどのように配慮しているのか?

 例えば政策への意見を公募するサイトでは、区民に住民登録番号および実名を入力してもらう。ただしこの二つの情報は、国のシステムを通じて本人確認に使うだけで、個人情報は区に残さないようにしている。

 監視カメラについては、カメラを設置するのは住民から了解を得た場所に限定している。住民に対しては「カメラの設置で、半年で犯罪が13%減った」などの実績を説明している。