料理レシピサイトを運営するクックパッドは、「リーン・スタートアップ」を実践する企業として知られている。同社に入社する社員は、書籍「リーン・スタートアップ」を入社前に読むことが推奨されており、同書のアプローチに基づいてサービス開発を進めている(関連記事:理論を実践するクックパッド、補完ツールも作成)。

 同社が6月上旬に発表した、有名料理家などのレシピを販売する「(レシピストア」も、リーン・スタートアップの手法にならって開発したものである(写真1)。

写真1●クックパッドの「レシピストア」
リーン・スタートアップの方法論に従って開発した
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 レシピストアは、「著名な人たちにもレシピをアップしてもらいたい」という狙いで開発を始めた商品で、彼らへの対価を支払うためにレシピを20品をセット購入してもらうことになっている。しかし、開発に着手した当初は、「単品で購入するようにしていた」(同社ストア事業部 事業部長の石田忠司氏)。リーン・スタートアップの手法では、仮説を実際の顧客からのフィードバックを基に検証、その仮説が市場のニーズと違っていれば、すぐに軌道修正(ピボット)する。クックパッドでも、それにならって早い段階でピボットしたのだ。

仮説をもってデータに向き合う

 レシピストアの開発初期のころ、単品販売の実装が終わり、試作品を社内で試してみてもらったところ、「あまりウケが良くなかった」(石田氏)という。社内でのトライアルとして有料販売したのだが、多くの人がレシピの価値は認めるものの、お金を払ってもいいとまではいかなかったのだ。ここで最初のピボットが生まれる。

 「リーン・スタートアップ」に書かれている「5回のなぜ」に基づき、原因を追求して導かれた次の仮説は「編集されたレシピの集まりを求めているのではないか」というもの。「複数のレシピから得られる学びがある」「食生活が変わる」など、何らかのキュレーション(情報をつなぎあわせることによる付加価値の創造)により、「購入してもいい」と思わせる商品づくりを改めて考えたのだ。

 そこで至った結論が「レシピ20品目」のまとめ買いである。例えば「陳建一氏の『和と中華のおいしい豆腐料理20品』が500円」といった値付けをしたのである。

 クックパッドではレシピストアを始める際に、「価値仮説」(その商品の独自を示したもの)として、「検索しやすさと実行しやすさ」「自分のお気に入りのレシピ集からまとめて検索できること」を定義した。また、「成長仮説」(そのサービスが継続的に利用され、ユーザー数が増える理由を示したもの)としては、「既に慣れ親しんだインタフェースに基づいて欲しいレシピが提案されること」を定義、サービス開始後にこれが正しいかどうか検証することにしている。

 ここで用いるのが、リーン・スタートアップの計測プロセスで推奨されているコホート分析だ。「人生の一定時期に同一の重大な出来事を共有している人々の集合」(コホート)を変動要因として考慮したデータ分析手法である。価値仮説と成長仮説をそれぞれ可視化できるようなユーザーフローを設定し、コンバージョンレートやアクティブレートを追えるようにしているのである。

 石田氏は、データ分析をするにあたり、仮説をもって臨むことを心がけている。「ネットサービスでは、数字は無限にとれる。重要なのは、仮説を設定し、ユーザーが期待する行動を定義して、求めるものだけを追うことだ」という。これにより、効率よく結論が得られるというのだ。

 さらに石田氏は「サービスを始めた後が本番。どんな変化が現れるのか注視し、今後の改善活動に役立てていきたい」としている。