ITの重要性が増す一方で、情報システム構築プロジェクトの失敗が後を絶たない。ビジネスプロセス・アーキテクト協会(BPA-P協会)はプロジェクトの成功確率を上げるヒントを得るため、「プロジェクトのつぶやき」研究チームを立ち上げた。本連載は研究チームによる成果の一端を、エピソード形式で紹介している。

 前回(システムの必要性を思いつきで判断するトップ)では、トップの思いつきに振り回される企業を紹介した。今回は婦人服製造卸からスタートし、オリジナルブランドを持つ総合アパレル企業であるK社の例を紹介しよう(登場人物はすべて仮名)。


 K社はアパレル業界では販売力もあり、毎期それなりの利益を出している。創業3代目の山本社長は、代々の悲願でもある上場を果たしたいと考えている。情報システムの開発はベンダーX社に依存しており、システム部員7人は主に保守を担当している。

シーン1:K社社長室
「システムはあまりに金がかかりすぎる」

 山本社長は上場に向けて、大木社長室長と内々に中期経営計画の策定を進めている。大木室長は上場の準備のために、山本社長が取引銀行から引き抜いた人材。現在はK社の取締役も務めており、山本社長の信任は厚い。

山本社長:当社は企業としての基盤は既にできている。上場するに当たり、まだ不足している点、改善すべき点は何だろう。

大木室長:自社の強みは当然、さらに伸ばしていく必要があります。加えて、新規事業をもっと検討していかなければならないと思います。

山本社長:そうだな。それにはさらなる投資が必要になる。不要な経費は今から削減していく必要があるな。特に問題があると私が考えているのはこれだ。

大木室長:(山本社長が示した資料を見て)情報システムのコストですか。

山本社長:そうだ。あまりに金がかかりすぎている。この前も情報システム部の渡辺部長に外注費を削減するように指示したところだ。

大木室長:確かにシステムには巨額な投資が必要ですし、ムダもあります。それでも、必要であればシステムを作らないと攻めに転じられません。システムを正しく運用すれば、業務効率化にもつながります。

大木室長のホンネ
システム部門の外注費をへたに削減すると、
攻めの経営にかえって支障が出るかもしれない…

山本社長:それもそうだな。先日、監査人から「御社のシステムは、業務に関するデータを経年できちんと取得・管理できていない。上場するのであれば、改善すべき」と指摘も受けたところだ。渡辺部長と共に、中期経営計画に合わせた情報システム戦略を策定してくれないか。

山本社長のホンネ
システムの外注費を削減し、一方でシステムを攻めの経営に生かす。
両者は両立できるものだろうか…