2012年6月はじめにFacebookが「アプリセンター」をオープンした(関連記事)。日々ソーシャルメディア関連の情報が飛び交う中で、もう過去の情報として記憶の片隅に埋もれてしまった人もいるかもしれないが、これはWeb/iOS/Androidなど、あらゆるプラットフォームにおけるアプリを探せるというものだ。もちろん、すべてのFacebookアプリが網羅されているわけではなく、一定のユーザー数を確保していたり、あるいはレーティングで高評価を得ているアプリケーションを厳選した形で紹介している。

 これまで企業がFacebookで、特にアプリケーションを活用したビジネス戦略を進めていく場合に、大きな課題だったのは「いかにしてアプリケーションを使ってもらうか」ではない。それ以前に「いかにしてアプリケーションの存在自体を知ってもらうか」ということに苦心していた。そうしたことを考えると、今回アプリケーションを探しやすくする環境が用意したことの意味は非常に大きい。これで企業もFacebookアプリを使った施策が、以前よりも活発になるかもしれないとも指摘する人もいる。

エンゲージメント構築をより重視する流れに

 だが、企業が積極的にFacebookアプリを活用した施策を推進する流れにあるかというと、現状では意外とそうはなっていない。むしろ、現場の担当者の間では、(ゲームをはじめとしたアプリケーションそのものがビジネスのキーとなるところを除くと)Facebookアプリの有効性そのものを慎重に検討していこうとする反対の動きも出てきている。

 以前の「続・海外のソーシャル担当者が強く意識していること」で触れたが、最近は「ファンのエンゲージメントを今以上に重視した上でのコンテンツ展開」が、企業の担当者における大きなテーマとなっている。実際Facebookをはじめとした、ソーシャルメディアを活用したコミュニケーション活動の最前線で、直接ユーザーとコミュニケーションを取る担当者を「Social Engagement Coordinator」というタイトルでアサインする企業も出てきている。それだけエンゲージメントを構築していく(ための場を作る)ことが重要視されているのだ。

 そういった中、なぜFacebookアプリの有効性が慎重に検討されているのだろうか。それはFacebookアプリが、自分たちのビジネスに直接関係してくれるであろうユーザーとの、継続的な関係性を構築するためのツールとして最良の方法なのかといった点が以前よりもシビアにチェックされるようになったからだといえよう。

 以前にも言及したように、企業が自分たちの施策の一環として提供してきたアプリケーションの多くは、そもそも自分たちのFacebookページを認知してもらい、かつ「いいね!」を押してもらうためのもの、つまりきっかけを作るためのものとして位置付けられていることが多かった。アプリケーションを利用するユーザー数も、アプリケーションの提供直後がピークで、その後はほとんど上向くことが無いという傾向を見せる。

コアターゲットとの関係性構築にアプリが有効か疑問の声

 だが、自分たちのビジネスに直接関係してくれるであろうユーザーとの、継続的な関係性を構築するための、いわゆるエンゲージメントを作るためのものとして位置づけた場合、これではパフォーマンスが高いとは言えない状態となってしまう。少なくとも一定規模のユーザーが継続的に利用する状態にする必要がある。できれば、それが右肩上がりになってくれないと「成功」とはいえないものになってくるはずだ。

 その目的のためには、多大なコストとリソースを投下してアプリケーションを開発するよりも、むしろ日々のウォール上のコミュニケーションを中心とした、積極的な会話にシフトしていった方が、コストパフォーマンスを考えても有効なのではないかと考える企業も少なからず出てきている。

 さらに、きっかけを作るだけであれば、「リーチジェネレーター」をはじめとした、他の比較的リーズナブルな選択肢が整ってきている。つまり、わざわざアプリケーションを開発して提供する手法自体が、ROIを考えた時によほど大きなメリットが得られるようなものでもない限り、なかなか実行に移せないといった状況になっている。

 目新しさや物珍しさだけでは十分な効果が得られないほどにまで普及してきたからこそ、地道かつ確実なアプローチにシフトしてきているともいえるだろう。

熊村 剛輔(くまむら ごうすけ)
リーバイ・ストラウス ジャパン デジタルマーケティングマネージャー
熊村 剛輔(くまむら ごうすけ)1974年生まれ。プロミュージシャンからエンジニア、プロダクトマネージャー、オンライン媒体編集長などを経て、マイクロソフトに入社。企業サイト運営とソーシャルメディアマーケティング戦略をリードする。その後PR代理店バーソン・マーステラでリードデジタルストラテジストを務め、2011年12月よりリーバイ・ストラウス ジャパンにてデジタルマーケティングマネージャーとなる。