「人ごとプレゼン」で、損をしている人は大勢いる。人ごとプレゼンとは、熱意がないわけではないけれど、謙虚だったり、恥ずかしがりだったり、論理的・建設的に説明しようとしたりするあまり、第三者が分析しているようなプレゼンだ。この人ごとプレゼンでは、聞いていてもプレゼンターの言いたいことがなかなかよくわからない。

 プレゼンを通して、「アイデアを知らせたい」「仲間を増やしたい」「製品を買ってもらいたい」といった考えがあるなら、「人ごと」ではなく、「自分ごと」のプレゼンにしたほうがよいだろう。前回に続き、東京大学で開催されたTEDxUTokyo関連企画「驚異のプレゼン道場」で、「人ごと」から「自分ごと」にバージョンアップさせた大学生のプレゼンを紹介しよう。

背景説明でせっかくの経験とビジョンがぼやける

 5月20日に東京大学で開催されたTEDxUTokyoでは、レセプションパーティ特別企画として「驚異のプレゼン道場」が行われた。TEDxとは、「Ideas Worth Spreading」(広めるべきアイデアを共有する場)をスローガンに掲げたカンファレンスであるTEDの精神を受け継いで、ライセンスのもとに世界各地で独自運営されているイベント。TEDxUTokyoは、東京大学3年生の本多正俊志氏を代表とし、その理念に共感する学生たちによって企画・運営された、日本の大学初のTEDxである(詳しい様子はこちら)。

 TEDxUTokyoスタッフの東京大学大学院 杉本雅明氏と経済学部3年の宮内秀聡氏らが発案・運営した「驚異のプレゼン道場」は、前日の19日に、4人の大学生が驚異のプレゼン道場でコーチからアドバイスと特訓を受け、上位二人が20日の本番プレゼンに臨むという企画だ。コーチを務めたのは、ベストセラー『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』に解説を寄稿したエバーノート・ジャパン会長の外村仁氏と、NTTドコモから独立して山下計画を設立してプレゼン指導も手掛ける山下哲也氏の二人。前回の村岡さんに続いて、本番プレゼンに臨んだのは、東京大学大学院の港道恵さんだ。

 港道さんのプレゼンは、「化粧で発展途上国の人たちを支援しよう」という興味深い内容。女性は化粧することで元気になれる、貧困で化粧できない人たちをエンパワーメントしたいというメッセージを出した(写真1)。

写真1●プレゼンする港道恵さん
写真1●プレゼンする港道恵さん
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 港道さんはフィリピンで現地の女性に化粧をするフィールドワークを通して化粧の力を感じ、おみやげなどで未使用の化粧品が余っている日本から、発展途上国に化粧品を送りたいとプレゼンした(動画1)。

  動画1●驚異のプレゼン道場Before編

 非常に内容が濃いプレゼンだったが、前半が「人ごと」に聞こえてしまった。貧困の現状や日本で化粧品が余っているという分析が多く、港道さん自身がこうしたいという熱意や、聞き手にこうしてもらいたいというメッセージがぼやけてしまっていたのだ。

 コーチの山下哲也氏は、「前半に『それで?』という疑問が続いてしまう。化粧で貧困問題の一部は解決できる、みなさんの力でアクションを起こせると伝えたほうがいい」とアドバイスした。さらに外村仁氏も、「化粧品で貧困を支援したいという考えも、フィールドワークをしたのも説得力があった。ただ、現状の説明や分析が多いのに対して、これがやりたい、こうできるんじゃないかというアクションの話があまりなかった。プレゼンの最後で聞き手が、ここまでは自分でできるので協力してみようと思うようにしてほしい」と提案した(写真2)。

写真2●写真2 アドバイスをする山下哲也氏(左)と外村仁氏(右)
写真2●アドバイスをする山下哲也氏(左)と外村仁氏(右)
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