あなたのプレゼンは、「人ごと」になっていないだろうか?

 よく見かけるのは、前半の大部分を「市場動向をご説明しますと…」「調査結果によりますと…」といった背景説明が占めるプレゼンだ。聞き手は「なるほど」と思いながらも、結局プレゼンターが何を言いたいのか、どうしたいのかがいま一つわからない。第三者が客観的に解説している「人ごとプレゼン」に聞こえてしまうのである。

 とはいえ、プレゼンターの気持ちもわかる。必ずしも人ごとだと思ってプレゼンしているわけではなく、「自分がこうしたい、こうしてくれと最初から聞き手に押し付けるのも申し訳ない」「きちんとした裏付けがないと説得力がない」と考えるからこそ、こうしたプレゼンになっていることが多いからだ。しかしそれでも、「人ごとプレゼン」になってしまうことで、聞き手に言いたいことが伝わらないのでは意味がない。

 プレゼンを通して、「アイデアを知らせたい」「仲間を増やしたい」「製品を買ってもらいたい」といった考えがあるなら、「人ごと」ではなく、「自分ごと」のプレゼンにしたほうがよいだろう。プレゼンの名手だったスティーブ・ジョブズは、自社製品のデモをしながら、「めちゃくちゃクールだねぇ」と心底うれしそうに「自分ごと」として話したからこそ、見ている側もその製品をめちゃくちゃ欲しくなったのだ。

 そして、「自分ごとプレゼン」は、スティーブ・ジョブズでなくてもできることだ。『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』の担当編集者が、「聞き手の共感を呼ぼう」というアドバイスをもとに「人ごとプレゼン」を「自分ごとプレゼン」へとバージョンアップさせた大学生の進化の過程をご紹介しよう。

学生が「とっておきのアイデア」をスピーチ

 5月20日に東京大学で開催されたTEDxUTokyoでは、レセプションパーティ特別企画として「驚異のプレゼン道場」が行われた。TEDxとは、「Ideas Worth Spreading」(広めるべきアイデアを共有する場)をスローガンに掲げたカンファレンスであるTEDの精神を受け継いで、ライセンスのもとに世界各地で独自運営されているイベントである。TEDxUTokyoは、東京大学3年生の本多正俊志氏を代表とし、その理念に共感する学生たちによって企画・運営された、日本の大学初のTEDxである(詳しい様子はこちら)。

 「驚異のプレゼン道場」を企画・運営したのはTEDxUTokyoスタッフの東京大学大学院 杉本雅明氏と経済学部3年の宮内秀聡氏ら。「ステージ上のスピーカーを特別な人とはせずに、自分たちも練習やチャンス次第で素晴らしいプレゼンができると知ってもらいたい」と考えて企画したという。

 まず、TEDxUTokyoの本番20日前、TEDxUTokyoに登壇する学生スピーカーの選考会を見に来ていた学生、約100人がそれぞれ30秒ずつ「自分のとっておきのアイデア」をスピーチすることになった。参加者からの評価が高かった東京大学の村岡恒輝さん、喜多恒介さん、東京大学大学院の港道恵さん、上智大学の宇高沙織さんの4人が、5月19日の「驚異のプレゼン道場」に参加することになった。

 驚異のプレゼン道場では、ベストセラー『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』の解説を執筆した、エバーノート・ジャパン会長である外村仁氏と、NTTドコモから独立して山下計画を設立しプレゼン指導も手掛けている山下哲也氏の2人が“鬼コーチ”として4人の学生を特訓。勝ち残った2人が、5月20日のTEDxUTokyoのレセプションでプレゼンできる。

苦労と解決策の素晴らしさを共感してもらう

 まずは、村岡恒輝さんが驚異のプレゼン道場でプレゼンを披露した。内容は、研究成果をこれまでの論文ではなく、動画で共有しようというアイデアだ。村岡さん本人が、ゴールデンウィークに英語の論文を読むのに3日かかったという苦労の体験から生まれた提案だった(動画1)。

  動画1●驚異のプレゼン道場Before編

 このプレゼンに対してコーチの外村仁氏はまず、「聞き手に共感を持ってもらうための見せ方が弱い」と指摘した(写真)。これまでの論文は、わかりにくい、読むのにも時間がかかる、直観的でないという課題を具体的に説明して、聞き手に「それは大変だ。確かに動画を使えば便利だ」と共感してもらうことが重要だとアドバイスした。実際、村岡さんのプレゼンでは、課題やその解決方法について、スライドや図がなく伝わりにくかった。

写真2●アドバイスをする外村仁氏(右)と山下哲也氏(左)
写真●アドバイスをする外村仁氏(右)と山下哲也氏(左)
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 さらに山下哲也氏からは、「このプレゼンで何がしたいのか」を短いヘッドラインで言えるようにしたほうがよいという助言があった。「アイデアを伝えることは重要だが、聞き手に何を伝えたいのか、プレゼンを聞いた後で聞き手に何をしてもらいたいのかを話せるようにしてほしい」(山下氏)。

 コーチのアドバイスを受けた村岡さんは、ほかの3人がプレゼン道場を受けている1時間強の間、必死にスライドを修正してプレゼンを再構成し、2回目のプレゼンに挑むことになった。