日本通運は、アジアの国・地域ごとに分散していた基幹システムを香港のデータセンターに集約した。アジア地域のシステム構築・運用の重要拠点である香港日通でインフラ分野を担当する門脇悟マネジャーと、アプリケーション担当の長谷川誠マネジャーに話を聞いた。

(聞き手は宗像 誠之=日経コンピュータ


アジア拠点でのIT関連業務で難しい点は何か?

香港日通の門脇悟マネジャー(左)と長谷川誠マネジャー(右)
香港日通の門脇悟マネジャー(左)と長谷川誠マネジャー(右)
門脇:インフラ面でいうと、国際ネットワークの部分だ。基幹システムをエリアごとに集約しているので、ネットワークは非常に重要になる。

 日本国内での通信ネットワークと異なり、国際回線の通信品質はあまり良くなく、コストも高い。さらに、それぞれの国や地域内での通信品質が大きく異なることも、インフラ運用を難しくする。香港やシンガポールは日本とほぼ同等の通信品質の確保が可能だが、その他地域はそうはいかない。

 国際ネットワークでは2~3時間、通信ができなくなることも少なくない。コストを考慮しながら、バックアップルートを確保した構成にする工夫が必要だ

長谷川:アプリ分野では、アジア各国の事情と標準化のバランスをどう取るかにいつも悩む。

 例えば、ある国向けの業務アプリを新しく作ったり機能を追加したりした場合、それを標準化して別の国の拠点にも適用しようと考える。だが、国ごとに業務環境や規制が違うので、どこまでを標準として抽出すべきかの見極めは非常に重要になる。

 我々のような物流業者としては、アジア各国・地域ごとに通関業務の規制や商習慣などにシステム対応するのが大変だ。突然の変更も多い。

日通のアジア拠点での課題は?

門脇:情報系システムのインフラ集約だ。基幹システムはある程度集約が進んでいるが、情報系は、メールサーバーなどを筆頭に手付かずになっている部分がある。各拠点に散らばっているサーバーなどが多すぎるので、これをどう集約して数を減らし、運用業務の負担やコストを削減していく必要がある。

 アジア地域のメールサーバー集約には既に着手しており、まず中国の南部、次に中国の北部、その後に東南アジアという順番で集約作業を実施し、2013年中くらいには、アジア全域でのサーバー集約を終えたい。

長谷川:物流サービスでは、顧客側のシステムと連携する業務アプリが数多くある。個別対応では時間やコストがかかるので、これをどうにかしたい。

 顧客ごとに機能追加やシステム変更をする場合が多いので、これを業界ごとのモデルケースを作り標準化していきたい。既存のソフトや機能を部品として資産活用し、運用や保守の手間を減らしたい。

日本人IT人材をグローバルで育成するために何が必要か?

門脇:まずは海外に出すことが重要だ。日本企業では、ビジネスの規模が大きく歴史もある国内業務用のシステムと、海外で必要になる業務システムは仕様が大きく異なるはず。一般的に、海外拠点向けのシステムは、日本向けに比べて機能がシンプルだ。日本向けと同じ発想で作るシステムは必要ない。こういう感覚は、実際に海外で働いてみないとわからず、肌感覚として実感できない。エリアに適したシステムを企画するためにも、こういう経験は必要だ。

長谷川:現場に放り込むのが一番だ。企業によって異なるが、海外トレーニー制度があるのなら、まずその制度を使い若手を海外で働かせる。その後、正式に駐在として赴任させ、責任を持たせてバリバリ働かせるのが良いのではないか。