本連載は、2010年7月から日経情報ストラテジーに掲載されたものです。2012年の現在でも通用するヒントを含んでいるため転載します。

 2010年12月、矢野経済研究所から「ネットマーケティング関連ツール市場に関する調査結果」というリポートが発表された。同調査によると、我が国のネットマーケティング関連ツールの市場規模は2009年で約200億円だった。2012年の市場規模は262億円まで拡大するという。

 この数字は米国の市場規模を考えるとかなり少ないように見える。たとえば、アクセス解析やリスティング広告の最適化ツールなどを提供し、2009年に米アドビシステムズ社に買収された米オムニチュア1社だけでも、2010年度の売上高は約300億円あった。

 もちろん、日米のネット広告市場には約3倍の開きがあるという点は考慮に入れる必要があるだろう。だが前述の日本の市場規模にはアクセス解析やネット視聴率調査、サイト内検索、リコメンド・エンジン、ランディングページの最適化ツール、リスティング広告の自動入札ツールなども含む。このことを考えると日本企業(特に広告代理店)は、ネットマーケティング関連ツールの導入にまだまだ消極的であるように思われる。

 かつてリスティング広告の運用管理ツールを日本で販売する海外ベンダーのコンサルティングに携わった経験から、その理由として3点を指摘したい。

 第1には日本企業が余剰人員の整理に慎重なことだ。IT(情報技術)投資全般でいえることだが、日本企業はツールを導入して分析や報告作業を効率化しても、それを人件費の削減につなげることができない。

 第2の理由は現場の抵抗だ。「汎用型」ツールを使いこなそうとすると、業務のやり方をツールの仕様に合わせて変えることも必要になる。

 ところが広告代理店は顧客の求めに応じて、リポートの頻度や内容を必要以上にカスタマイズしていることが多い。ツールを導入して効率化を図るならば、リポート方法などについて顧客と改めて折衝することになる。そうした折衝に及び腰な営業担当者は、往々にして「このツールの仕様では要件は満たせない。お客様に迷惑をかける」などと結論づける。経営陣がツールの導入を主導しない限り、非効率とは分かっていても、現場は手作業を続けてしまいがちだ。

 第3の理由は、ツールの導入・運用を支援する専門家の不足だ。特にアクセス解析などは、目的やニーズに合わせた解析タグの設定方法などをアドバイスできる人材がいないと、大きな成果を上げにくい。

 2011年は、いま一度経営的な視点から、ネットマーケティング関連ツールの導入について検討してみてはどうだろうか。

泉 浩人(いずみ ひろと)氏
ルグラン代表取締役
泉 浩人(いずみ ひろと)氏 慶應義塾大学経済学部卒。米ジョージタウン大学MBA。三井銀行(当時)、米オーバーチュア(同)を経て、2006年にデジタルマーケティングに特化したコンサルティング型代理店ルグラン(www.LeGrand.jp)を設立。著書に「SEM成功の法則」(ソーテック社刊)、「クリック!指先が引き寄せるメガチャンス」(監訳・イーストプレス刊)など。