前回は、プロジェクトの成功のために、PMOには“何か足りないものを見抜く力”が必要だと述べた。今回はその“何か足りないもの”をどのように探し出し、どう行動をすればよいのかを考えたい。

後藤 年成
マネジメントソリューションズ 取締役 PMP


 プロジェクトを成功に導くうえで“何か足りないもの”があるとすれば、それをどのようにつかめばよいのでしょうか。前回、何か足りないものは、(1)人と人の間、(2)組織と組織の間、(3)プロセスとプロセスの間、(4)ツールとツールの間のどこかに存在するものだと説明しました。今回はそれらを詳細に見ていきたいと思います。

 最初に、人・組織の間で足りないものを見てみましょう。図1のように、組織における縦方向と横方向の隙間、または人と人の間にある隙間に注目してください。

図1●「何か足りないもの」がある場所
図1●「何か足りないもの」がある場所
「組織と組織との間」「人と人の間」に、誰の守備範囲でもない場所がぽっかりと空いている。

 具体的には、組織間や担当間の役割分担で抜けている役割があるとか、大きな課題が発生した場合のエスカレーションパスが不明瞭になっている、といったことです。また、役割が重複している場合も注意が必要です。主担当と副担当というように意思決定の順序が明確になっている場合はいいのですが、同じ領域で同じレベルの意思決定者が複数人いると、意思決定に時間がかかります。意思決定者の2人の意見が異なるときの調整コストを考えると、良いことはありません。

 PMOは、組織の役割や権限を交通整理することによって、それぞれの守備範囲の隙間で“ポテンヒット”が生まれないようにしなければなりません。もちろんポテンヒットをすべて防ぐことは不可能なため、ポテンヒットをPMOが自ら拾いに行って、拾ったボールを適切な場所に投げるという行為をPMOが主体となってすることが必要です。その際、ボールを投げる適切な場所がなければ、PMOはプロジェクトマネジャーとともにボールを受け取ってくれる組織や担当者を決めて説得しなければなりません。

 次に、人と人の間という観点では、前述したようにメンバー間の役割の間を埋めることも重要ですが、より必要なことは「感情の間」を埋めることです。

 プロジェクトが円滑に活動できていない場合の代表的な失敗パターンとしては、プロジェクトマネジャーや核となるプロジェクトメンバー間で良い人間的関係を築けていないことがよくあります。こんな時にPMOは多少面倒でも、その対立の間に立って仲を取りもつことも必要になってきます。簡単に言えば、コミュニケーションの断絶が発生しないように、人間関係(コミュニケーション)の潤滑油的な動きを行うということです。あまりに感情面での対立がひどい場合は、人を変えるという選択肢も視野に入れなければなりません。