前々回、それに前回と、大企業におけるソーシャルメディア活用の難しさについて触れた。その「難しさ」と言われるものに含まれる最も大きな要素として、特に「規模」を強調してきた。その「規模」がもたらす難しさをクリアしていくためには、ある意味正攻法ではあるものの「内部コミュニケーション」が重要なカギとなってくる。

 今回は、この「内部コミュニケーション」、特にコンセンサス形成が不十分なまま進んでいくことでよく生じてしまうケースについて、いくつか考えてみよう。

1.顧客とのコミュニケーションの場が、いつの間にか口コミを生むことを目的とする場にすり替わるケース

 実は、こういったケースは、かなり多いのではないかと思う。当初、施策を企画していく段階では、発信することではなく「聴く」ことを前提にした戦略を構築していたものの、実際にスタートするに至る過程で、いつしか口コミを生むことを目的とする要素が、それも中途半端な形で含まれてしまうというものだ。

 そもそもの意図としては、ある程度中長期的な時間をかけて、まずは「傾聴」から始めつつ、顧客との将来的な関係性をゆっくりと作っていくというものであったとしても、組織内で様々なステークホルダーを経由していくうちに「せっかくソーシャル メディアを使うのに、なんか地味じゃないか?」あるいは「これで、どうやって口コミを拡げるんだ?」というような意見に巻き込まれてしまうことがよくある。結果的に中途半端に口コミを広めようとするアクションを盛り込んでしまう結果になるというものである。

 このケースは、もともと「傾聴」をベースにコミュニケーションの根幹を構築していた戦略に対して、後付けという形で「口コミを生み出す」という、ある意味では逆の要素を盛り込むことになる。そのため、最終的には戦略の軸が大幅にブレてしまう。その結果、どっちつかずの状況になり失敗に至る可能性が非常に高くなるのだ。

2.思い切ったアプローチが徐々におとなしくなってしまうケース

 これは、最初から「発信」を重視し、積極的に自分たちのメッセージを広げていこうという戦略を組んでいく際によく見られる。しかも、どちらかというと、比較的規模の大きな企業において、その傾向は顕著だ。

 実際、ソーシャルメディア上で話題化させることを狙うために、そのコンテンツの面白さやインパクトを中核としたプランニングを行っていくことが多い。だが、この面白さやインパクトが、実践に至る過程で様々なステークホルダーを経由していくうちに、どんどん「無難なもの」に落ち着いてしまうというのが、典型的なパターンである。

 インターネット上にあふれている多くのコンテンツの中で、強い印象を残し、かつ話題化されるようなものを作るために、時にはかなり過激なアプローチで臨む必要も出てくるかもしれない。ただ、企画段階では盛り上がるが、実際にそのコンテンツを発表することが現実味を帯びてくると、「こんなコンテンツを出して大丈夫だろうか…」という懸念が徐々に大きくなってくる。結果、少しずつ「丸く」なり、最終的には無難ではあるものの、全く印象に残らないコンテンツに落ち着いてしまうことが少なからず発生する。

 これは、これまで述べてきた「規模」に関して、特にステークホルダーや担当者当の「人数的な規模」が大きい場合において上手くコンセンサス形成がなされなかった結果であることが多い。

3.結果的に中小規模かつ属人的なアプローチになってしまうケース

 これは「内部コミュニケーション」を徹底し、コンセンサス形成に努力しながらも、それがうまくいかなかったケースとなる。

 主体的に動く部門や担当者が少なかったり、あるいは一人だけといったように限られてしまうことで、戦略の効果なども限定的なものとなってしまうことが多い。また、オペレーションがどうしても属人的になってしまうため、たとえば以前に本連載でも述べた「担当者がいなくなると何もできない」というリスクが非常に高くなってしまう。このため最終的には持続することが困難になり、途中でストップしてしまうケースも少なくない。

 今回は「内部コミュニケーション」によるコンセンサス形成が不十分なままスタートしてしまうことによるリスクとして考えられるパターンを具体的なケースで考えてみた。こういったケースに陥ることを避けるためにも、『きちんと組織としてアプローチすることを前提に関係者間で調整しながら密な体制を作って臨む』のが重要であるということを、あらためて意識していく必要があるだろう。

熊村 剛輔(くまむら ごうすけ)
リーバイ・ストラウス ジャパン デジタルマーケティングマネージャー
熊村 剛輔(くまむら ごうすけ)1974年生まれ。プロミュージシャンからエンジニア、プロダクトマネージャー、オンライン媒体編集長などを経て、マイクロソフトに入社。企業サイト運営とソーシャルメディアマーケティング戦略をリードする。その後PR代理店バーソン・マーステラでリードデジタルストラテジストを務め、2011年12月よりリーバイ・ストラウス ジャパンにてデジタルマーケティングマネージャーとなる。