アビーム コンサルティング
プロセス&テクノロジー事業部 マネージャー
小宮 伸一

 本連載では、情報システム部門(IT部門)が「IFRS(国際会計基準)対策」を受動的にではなく、能動的に進めるにはどうすべきなのかを中心に解説している。前回と今回では、会計系アプリケーションと経営情報系アプリケーションに対する影響と対策案を取り上げている。

 前回(IFRSによる会計/経営情報系アプリケーションへの影響(上))は財務会計システムについて説明した。今回は固定資産管理、原価計算、連結会計の各システム、および経営情報系アプリケーションに対する影響と対策案を順に見ていく。アプリケーションの全体像については、前回の図1をご覧いただきたい。

固定資産管理システムへの影響と対策案

 固定資産管理システムは、有形・無形の固定資産の取得、減価償却、除売却や、リース資産の契約管理、物件管理、支払管理などの機能を有する。IFRS適用によるシステムへの影響として、「借入費用の資産化」「減損損失の戻し入れ」「将来の経済的便益に基づく減価償却」「リースの資産計上」などが挙げられる。順に説明しよう。前回から引き続いて会計寄りの話が続くが、少々辛抱していただきたい。

「借入費用の資産化」と「減損損失の戻し入れ」

 まず「借入費用の資産化」と「減損損失の戻し入れ」を見ていく。これら二つの要求事項がシステムにどれだけ影響を与えるかは、関連する情報をどのように扱うかによって異なる。

 システム内で各情報を管理しようとすると、影響は大きくなる。一方、関連情報はシステムの外で管理すると割り切ってしまえば、システムの改修は基本的に不要となる可能性が高い。

 「借入費用の資産化」は、「使用または販売までに相当の期間を要する資産(たとえば建設に1年以上かかる資産。適格資産と呼ぶ)」にかかわる手数料や借入金利などの借入費用を、資産の取得金額に含めることを要求している。包括的な借り入れで個別資産にひも付けていない場合は、借入額を目的別に按分することになる。

 これらの処理はそれなりに煩雑になる。このため、重要性を判断することで、「一定額以上の借入費用のみを資産化する」というルールにするなど、あらかじめ会計監査人と協議しておく必要がある。

 借入費用を資産化する場合も、固定資産の取得原価に算入する金額はシステムの外で計算しておき、他の金額と合算して固定資産管理システムに登録する形を採れば、システム改修は不要となる。一方、借入金自体をシステム管理している場合は、借入費用を経費処理していた仕訳を変更する必要がでてくる。

 「減損損失の戻入れ」は事例が少ない。下落した不動産価値が大きく上昇する場合など、例外的な事象でしか発生しないからである。

 もしも発生した場合は、当該資産を固定資産管理システムから外して表計算ソフトで別途管理するか、固定資産管理システムで減損損失のマイナスで処理すればよい。この場合、戻し入れには上限がある点に注意を要する。戻し入れの上限は、減損せずに減価償却し続けた場合の残存簿価となる。