前回は、現状の震災復興計画の課題と問題点を指摘し、統合した計画の策定のための大まかな方向性を示した。今回からは具体的な方法論の解説に入っていく。ただし都市復興の全体像を語るには回数を要するので、「組織マネジメントの手法」「工程管理の手法」「サプライチェーン管理への応用」の順で話を進めていく予定であることをご了解いただきたい。

 今回は米軍の組織マネジメントの事例を紹介する。復興のノウハウを知りたい読者になぜ戦争の事例を紹介するかというと、その体制作りは、都市を短期間で作り上げるプロジェクトと似通っているからである。短期間に作戦を遂行するために、兵員の居住施設を用意し、食糧・水を確保し、物流を整備し、兵員の医療、心のケア、電力、通信手段を確保するプロジェクトであるといってよい。

 目標を設定して復興へのロードマップを作っていく方法は、米軍のマネジメント事例を紹介した後の回で解説する予定だ。

「短期間で圧倒的な戦力を投入する」ための必要条件を洗い出す

 2003年のイラク解放作戦(「イラクの自由作戦」ともいわれる)で、米軍は米AGIのノウハウを活用した。遠い中東でたくさんの兵士を危険にさらし、多大な戦費を使うことには、当時の米国でも否定的な空気が醸成されやすかった。それだけに、短期間かつ少ない人員、少ないコスト、小さいリスクで作戦を遂行する、という命題が課せられていた。

 ここで、前回に「統合的な復興戦略」の条件として以下の4つを紹介したことを思い出していただきたい。この順で、米軍がどのように個々の組織の連携や目標を定めていったのかを解説していく。

  • 到達すべき目標を明示する
  • 全ての項目・要素はその目標達成に必要なもの(necessity)のみを配置し、付加的なもの(nice to have)を排除する
  • 各項目・要素間の前後関係と関連性を精査して工程表を作成する
  • 作成手順はボトムアップ(下から)ではなく、トップダウン(上から)作成し、制約や障害も考慮する

 まず、到達すべき目標を定める。言うまでもなくイラク解放作戦においての目標は「戦争に勝利する」である。 

 次に、その目標達成に必要なもの(necessity)を検討する。このときは「なぜできないか」と、できない理由を出すつもりで進めることがコツである。人間は「こうやればできる」という項目を出そうとするとどうしても漏れを生じやすい。また、「Nice to have」(=付加的なもの)を排除し、本当に必要なもの(Necessary)だけを列挙した。 

 1の目標を満たすための要素として、ここでは「短期間で圧倒的な戦力を投入する」(=出撃拠点を短期に建設する)が掲げられた。さらに、その実現のためのミッション、さらにそのミッションを達成するための条件が整理された。

 まずミッションは「燃料の補給を可能にする」となった。飛行場を出撃拠点として使用するには、燃料の補給と離着陸が万全な状態であることが不可欠だからだ。