宮城県や岩手県をはじめ、東北・北関東を中心に被害をもたらした東日本大震災の大きさに驚き、悲しんでいる。また、日本国政府が復興に取り組む速度の遅さを遺憾に思う。

 私事になるが、筆者も被災地の1つである宮城県石巻市の高校出身である。実家は無事だったものの、親戚や友人の多くが被災している。旅館業を営んでいたが津波で全壊し生活基盤を完全に失った親戚もいれば、新築したビニールハウスごと農地が海水をかぶってしまい途方に暮れている親戚もいる。生活基盤を失わずに済んだものの、用水路・堤防などのインフラが毀損したため農業生産活動に支障を来している親戚もいる。

 しかし日本国政府による復興への取り組みは、報道で知る限り、福島第一原子力発電所事故への対応に偏重しているように見受けられる。

 宮城県は漁業・農業復興のための先進的な方針を打ち出すなど、周辺の他県よりは比較的速いペースで復興に向けて動き出している。それでも各分野の施策を統合的に立案し、中央政府の政策との整合性を確保することには苦心しているようだ。都市計画や、道路と上下水道と汚水処理施設の再整備、住民の経済的基盤の確保といった幅広い分野を統合した復興ロードマップを策定することが課題になっている。

 一方、盟友である米国は米軍を通じて様々な支援を提供してきた。ご存じのように米国もここ10年、決して大きな災害が起きていないわけではない。だがそれらが中央政府への著しい批判につながったというケースはあまり記憶にない。福島第一原発事故についても、事故発生直後から最悪の事態を想定した支援アイテムを日本政府に提示していたとの報道がある。

 当社では、米国の有事への対応力は、日本のそれをはるかにしのいでいるのではないかと考えている。また、米国本社のゴールドラット・インスティテュートは10年以上にわたり、米国海軍や海兵隊、空軍などに対して、組織管理やプロジェクト管理(F22戦闘機“ラプター”などの兵器開発、イラク戦争開戦準備など)、サプライチェーン(軍事補給)改革といった領域の基本理論・ノウハウを提供してきた。

 そこでそれらのノウハウを日本にも役立ててもらおうと、当連載を始めることになった。短期間で整合性の取れた被災地の復興計画策定や、実行組織の管理、プロジェクト管理、サプライチェーン改革などを念頭に解説を進めていく。米軍の取り組みについては、米国外で初めて公開を許可された事例の解説を予定している。 もちろんそのノウハウは政府や自治体などの公共団体だけでなく、企業にも応用できる。

日本政府の工程表は将来像や個々の施策の到達目標などを欠いている

 東日本大震災のような大災害においては、復興は多段階を踏む。それだけにどのようなアプローチで段階を踏むかにも検討の余地がある。

 災害復旧で直面する典型的な課題には次のようなものがある。

  • 適時に適切な場所へ、復旧の取り組みを集中させること
  • 足元の問題に対処する取り組みが将来の復興の土台(プラットフォーム)構築にもつながるようにすること(短期施策が長期的施策の礎になること)
  • 政府・地方公共団体が結果を出せると国民が信頼感を持てるようにすること
図●工程表
図●緊急災害対策本部が2011年5月20日付で発表した工程表
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 政府と地方公共団体は組織間の壁が厚いためにプロジェクト間で整合性を保ちにくく、また利害調整のためにスピードを欠きがちだ。前述の課題に効果的に対処するためには、統合的なアプローチが必要である。すなわち「意味と方向性を伴ったスピード(ベロシティー)」を持って目的達成を可能にするような、統合的な復旧戦略が必要とされている。

 では現状の日本政府の取り組みの課題は何か。2011年5月20日付で緊急災害対策本部が発表した「東日本大震災に係る被災地における生活の平常化に向けた当面の取組方針(内閣府)」の末尾にある工程表を見てみよう()。各施策が正しいかどうかを議論する前に、全体構造を評価すると以下の2点が目につく。

  • 向かうべき将来像/全体像の欠如
  • 一つひとつの施策・項目の到達目標と、中間段階目標が未設定