今回はIFRS適用プロジェクトの第1段階である「変革の検討段階」においてなすべきことと注意点を解説する。論じるに当たり、会計システムの刷新も同時期に実施することを前提とする。タスクフォースを組織し、現行会計基準とIFRSとの差異を識別し、自社の会計方針を作るとともに業務プロセス・システム設計・テストなどを検討していく。

適用後も自社なりの会計ルール維持・更新が続く

 各企業では既に「現行会計制度とIFRS(国際会計基準)との差異は何か、その対応をどう取るか?」について議論が始まっているはずだ。しかしながら「適用後に会計標準をどう維持する組織体制を作ればよいか?」まで含めて議論している会社は多くない。

 IFRSを適用した後も、事業会社は新たな事業や取引を生み続けるはずである。そうである以上は、会計原則と実務を照らし合わせつつ、個々に自社の会計ルールに落とし込んでいかなければならない。

 すなわち適用後も、自社なりの会計ルールを維持・更新していける組織が必要となる。本連載の第2回などで触れたようにIFRSは、売り上げ計上のタイミングや、減価償却の耐用年数、リース基準などの細かなルールを定めない原則主義だからだ。

 ところが多くの企業では、IFRSの会計処理を業務とシステムに翻訳できる要員が不足している。そもそも海外の会計知識と会計業務に精通した人材が乏しい。しかも10年前にERP(統合基幹業務)を導入し、会計業務を見直し、会計システムの構築スキルを身につけたはずだったが、その経験は風化しつつある。

 よってIFRSの検討タスクフォース結成に当たっては、適用後の組織像や、会計ルールと業務を深く理解した人材の育成を考慮しながら進める必要がある。

適用とスキル充足を同時に行う

 IFRS適用は下記の3つの段階を踏む。第1段階、第2段階では検討タスクフォースが中心となって活動を進め、第3段階までに経理、営業、システム運用など各部署の現場に変革を浸透させる必要がある。

第1段階…「変革の検討段階」。現行会計基準とIFRSとの差異を識別し、自社の会計方針を作るとともに業務プロセス・システム設計・テストなどを検討し、導入する。

第2段階…「受け入れの移行段階」。決算テスト、契約手続きの改訂、関連連結対象会社および海外子会社への展開、業務運営体制の整備などを実施する。

第3段階…「組織運営」という最終段階。

 今回はこのうち第1段階、すなわち現行会計基準とIFRSとの差異の識別や、自社の会計方針作り、業務プロセス・システム設計・テストなどを検討・導入する段階に重点を置いて解説する。

 第1段階ではまず「会計視点」で以下を行う。

  • 現行会計制度とIFRSとの会計業務の差異を抽出。例えば、収益認識の定義、経済的便益(設備の寿命など)を反映した固定資産の減価償却、退職金給付の未認識債務といった論点ごとに会計方針とルールを決める
  • 新ルール適用に向けた業務・システム影響範囲を特定

 その次に「機能視点」へ転換し、以下を行う。なお機能視点とは、「販売」「物流」「記帳・決算」「人事」など、機能単位を意識したものである。

  • 適用で影響を受ける範囲を特定し、対処を決定
  • システムを導入

 これらを踏まえ、必要人材・スキルをERP導入と比較しまとめた(図1)。

図1●IFRS検討タスクフォースの特徴と必要な能力。ERP導入時と比較して示した
図1●IFRS検討タスクフォースの特徴と必要な能力。ERP導入時と比較して示した
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 第1段階のタスクフォース結成・運営の鍵は、図1の中で青色の枠で囲んだ以下の4点である。

(1)会計方針の意思決定とリーダーシップ
(2)会計論点の優先順位付け/切り分け
(3)実態調査と会計処理方針の決定
(4)会計論点から機能論点への移行

 この(1)~(4)それぞれについて、「やるべきこと」、「注意すべきこと」を示していこう。