アビーム コンサルティング
プロセス&テクノロジー事業部 プリンシパル
永井 孝一郎

 本連載では、情報システム部門(IT部門)が「IFRS(国際会計基準)対策」を受動的にではなく、能動的に進めるにはどうすべきなのかを中心に解説している。前回(第1回 能動的なIFRS対策の必要性)は、企業のIFRS対応状況や情報システムへのインパクト、IFRSプロジェクトの特徴、およびIT部門が果たす役割について解説した。

 今回は、IFRSが情報システムに及ぼす影響をもう少し具体的に説明する。同時に、IT部門がIFRSプロジェクトに能動的に参画するうえでの手掛かりとなる、IT部門ならではの判断について説明したい。

IFRSが情報システム全体に及ぼす影響

 IFRSは決算の開示だけでなく、現場の日常業務や情報システムにも大きな影響を与える。スポーツでルールの変更が試合運びや選手の動きに大きな影響を及ぼすのと同じである。企業の経済活動の尺度である会計ルールの変更は現場業務や情報システムに影響を与え、内容によっては経営者の思考や行動にも反映される。

 たとえば、これまで「売上」だと思っていた取引が決算に反映されなくなれば、仕事のやり方や経営上で重視する指標も変わってくる。前回はIFRSが情報システム全体に及ぼす影響の例として「決算期の統一」を挙げたが、他にも多くの影響事項がある(図1)。いくつかを簡単に説明しよう。

図1●IFRSが情報システム全体に及ぼす影響
図1●IFRSが情報システム全体に及ぼす影響
[画像のクリックで拡大表示]

 「会計方針の統一」は、これまで親会社と子会社とで異なっていた会計処理ルールを、類似した取引環境であれば同じルールで処理することを意味する。在庫評価方法が親会社は移動平均なのに子会社は先入れ先出しになっている、原価計算がグループ各社ごとに異なるどころか工場ごとに異なっている、といった状況を見直す必要があるということだ。

 「連結範囲の拡大」は、連結決算対象となる子会社・関連会社の範囲を見直す必要が出てくることをいう。日本基準には小規模会社を連結対象外にするための例外規定があったが、IFRSには存在しない。そのまま解釈すれば、原則としてすべての関係会社を連結対象としなければならなくなり、システム化や内部統制構築・評価の範囲も見直す必要が生じる。

 ただし、IFRSでも「重要性の原則」と呼ばれる費用対効果の判断は認められる。この場合は、連結決算に要するコストと連結決算全体への金額的および質的影響を考えたうえでの判断となる。このため、自社で適切な判断基準を設定して影響が僅少な会社を連結対象から外すことができる。

 「勘定体系再編」によるシステムへの影響は分かりやすいだろう。IFRSではこれまでと勘定体系が変わり、勘定科目数も増加する。さらに、IFRS基準書のひとつであるIAS1号(財務諸表の表示)が現在検討中の方向で改訂された場合は、勘定科目をキャッシュフロー計算書のように「営業活動」「投資活動」「財務活動」に分けて表示しなければならなくなる。廃止する事業があれば、これも当該事業にかかわるすべての勘定科目を分割して開示することになる。

 勘定体系の変更が、各種画面・帳票や自動仕訳などの処理ロジックに大きな影響を及ぼすことはいうまでもない。関連事項として、同じくIAS1号で直接法によるキャッシュフロー開示が義務付けられた場合は、仕訳入力や自動仕訳はもちろん、現預金が絡むすべてのシステムについて修正を検討する必要が出てくる。