アビーム コンサルティング
プロセス&テクノロジー事業部 プリンシパル
永井 孝一郎

 日本企業におけるIFRS(国際会計基準)対応が加速している。先行企業はすでに2年以上前から進めているが、2010年後半から中堅・中小企業にも動きが広がりつつある。

 IFRSは会計処理だけでなく、現場の業務や情報システムにも大きな影響を及ぼす。個々の企業に熟議にもとづく方針策定と業務処理設計を求める制度であるといえよう。IFRS対応において、現場の業務と情報システムを包括的に把握しているIT部門(情報システム部門)は能動的にかかわる必要がある。経理部門から下りてくるシステム要件を待っているという姿勢は望ましくない。

 本連載では、IT部門が「IFRS対策」を受動的にではなく、能動的に進めるにはどうすべきなのかを中心に解説する。ここで「対応」でなく、あえて「対策」と呼んでいる理由は後述する。第1回である今回は、企業のIFRS対応の現状と今後のスケジュール、およびIT部門がどのようにかかわっていくべきかについて見ていく。

多くの企業はIFRS対応の初期段階

 冒頭で触れたように、2010年後半からIFRS対応に着手する企業が大幅に増えている。一部の先行企業は2008年もしくはそれ以前に着手しており、2009年には大手企業のほとんどが対応を開始した。2010年からは中堅・中小企業も相次ぎIFRS対応を始めている。

 ただ、各社のIFRS対応の内容をみると、一部を除けば初期段階にとどまっている。経理・財務部門の担当者が情報収集や研究を開始した、監査法人などに依頼してIFRSによる会計処理への影響調査を行っている、といった具合だ。これは、IFRSの改訂作業や米国におけるIFRSへの移行判断の遅れ、あるいは、金融庁の企業会計審議会などでの各界の論調が必ずしも早期の強制適用に肯定的でないことなどが影響しているとみられる。

 IFRS財務諸表の監査を行う側の日本公認会計士協会会長でさえ日本経済新聞のインタビュー(2011年2月5日朝刊)で、2015年時点では全上場企業に対する監査体制が整わないという趣旨の思い切った発言をしている。これらを受けて、以前から見られた論調ではあるが、一律のIFRS強制適用に懐疑的な発言が目立ち始めてきた。