何か言うと、周囲に反対される。だったら何も言わないほうがマシだ---。こんなふうに考える人が多いかもしれません。田中淳子氏と芦屋広太氏によるヒューマンスキル往復書簡の第4回で、田中氏は信念を持ち、行動することの大切さをエピソードを交えて語ります。(編集部)

芦屋さんへ

 全体最適を考える力、確かに大切ですよね(第3回「目先の利害しか見ない人、全体最適を考える人」を参照)。

 部分最適だけでなく全体最適を視野に入れて、しっかり考える。何か問題が発生したときに、こうしたステップを踏んだうえで手を打っていかないと、対応がどうしても場当たり的になってしまいます。

 とりあえずその場はしのげるかもしれません。しかし、状況が悪化するのは止められないでしょう。抜き差しならない事態に陥ってから、「前から言っていたのに」と愚痴をこぼしても後の祭り。こんな経験をお持ちの方も多いと思います。

 難しいのは、多くの人が「これではダメだ」「こうしたほうがよい」などと考えたり言ったりしているにもかかわらず、状況を変えられないケースです。なぜ、そんな事態が起こるのでしょう。

本気なら、簡単には諦めない

 よくあるのは「言ってみたけど、ダメだった」というものです。上司や影響力のある人に何度も言ったが、「時期尚早」「それは必要ない」などと受け入れてもらえない。最初は、頑張って説得しようとするものの、いくら言ってもダメ。そのうちに「言っても無駄だ」と感じるようになり、最後は何も言わなくなってしまうというケースです。

 上司は部下の発言を、それこそ「部分しか見ていない」と感じたのかもしれません。でも、その発言にとても重要な提案が含まれているかもしれないのです。上司が気づかない視点を与えてくれる意見もあるはずです。

 部下の発言を頭ごなしに否定せず、「彼・彼女は何を伝えたいのだろう」と関心を持って耳を傾けることも大事だと思います。上司が常に正しく判断できるとは限らないのですから。

 ただ、「聴いてもらえない」と嘆く側に問題がある場合もあります。こんなことがありました。ある人が「『こうしたい』と何度も訴えたのですけど、ダメでした」と言うので、「何度言ったの?」と尋ねました。すると、返ってきた答えは「2、3回かな」。それは何度も言ったうちには入らないのでは、と首を傾げてしまいました。

 何かを人に伝えようとする場合は、粘り強さが大切です。信念を持って主張しているのであれば、耳を傾ける人はいつか現われることがあります。なのに、主張してみるものの、それが受け入れてもらえないと早々に諦めてしまう人をよく見かけます。

 何度も言うどころか「言う前から諦めている」人もいます。「言ってもダメかなあと思って」「どうせ、変わらないし」などと、何かを変えることにかかわること自体を避けるのです。「言わずに諦めていいの?」と聞くと、「ボクの立場では無理です」「私には力がないですし」という答えが返ってくることもあります。

 そういう人はきっと、心底、本気ではないのでしょう。心の底から「こうしたい!」という思いがあれば、そう簡単には諦めないはずです。一度や二度却下されても、やむにやまれぬ気持ちがあれば、アプローチの方法を変えて何度もぶつかっていくと思うのです。芦屋さんのお話に出てきたYさんが、正しいと思う道を諦めずに突き進んだように。