有限責任監査法人トーマツ
エンタープライズリスクサービス部 シニアマネジャー
鈴木 徹也

 前回から、IFRS(国際会計基準)が決算・財務報告プロセスに与える影響を取り上げている。前回は見積もり・判断が必要となる分野を中心に説明した。今回と次回では、決算・財務報告プロセスに関連して決算早期化について説明する。

 海外展開をしているなど親会社と子会社の決算日が異なる会社において、決算早期化はIFRSに対応する際に必ずと言っていいほど検討する必要があるテーマとなる。今回は決算早期化が要請される背景と、対応のポイントを中心に説明する。

IFRSにおける決算期の規定

 IFRSでは決算期に関して、IAS第27号「連結及び個別財務諸表」で規定している。IAS第27号22項では、「連結財務諸表の作成に用いる親会社およびその子会社の財務諸表は、同じ日現在で作成しなければならない。親会社の報告期間の末日が子会社と異なる場合には、子会社は、実務上不可能な場合を除いて、連結のために、親会社の財務諸表と同じ日現在で追加的な財務諸表を作成する」としている。

 日本基準では原則として決算期の統一を要求しながら、例外として3カ月の差異を許容している。ここで、IFRSにある「実務上不可能な場合」の解釈が論点となる。

 この点、IAS第1号7項において、「実務上不可能な場合」とは「企業がある定めを適用するためにあらゆる合理的な努力を払った後にも、適用することできない場合」とされており、決算作業が遅いためといった単純な理由は許容されないと解される。一般に、12月決算を強制している中国の子会社などを想定していると解釈される。そういったケースには仮決算が必要になる。

 一方、重要性の一般原則により、重要性の小さい会社については仮決算を行わず、異なる決算期での連結も許容されるものと解釈される。このことからIFRS対応において、決算期が異なる子会社を有する会社が直面する典型的な課題の一つとして決算早期化が俎上に載ってくる。

経営管理の側面からも決算早期化は必要

 決算早期化はIFRSの規定面から必要になるだけでなく、そもそも経営管理の側面からも必要性は高いといえる。

 昨今の経営環境の変化が激しいのは論をまたない。そうした状況のなかで、海外の売上高などの比率が高い企業で例えば親会社の決算期が3月、子会社が12月であったとする。この3カ月のズレが今後も続くことは、はたして容認し得るか。この点についてぜひ検討していただきたい。

 2008年のリーマンショック以降、経営環境の変化はより激しくなっている。、3カ月の決算期のズレにより、直近の企業状況を正しく決算に反映できていないのではというジレンマに陥った会社も多いのではないかと推察される。現地の月次決算には反映されているとしても、連結経営の観点からは管理会計や外部報告の決算期を統一している状態があるべき姿であろう。しかも決算期のズレは、決算作業の負荷増大につながる。この意味でも、何とか決算期を統一できないかと考えるのが普通ではないだろうか。

 IFRS対応プロジェクトの中で、海外子会社の決算期統一を検討している企業は少なくない。特に早期に取り組みを開始した会社では、経営管理・外部公表数値を適正化するために決算期を統一したいというニーズをもともと持っており、今回のIFRS導入を契機に決算期統一に正面から取り組むというケースが多いように見受けられる。

 以上の背景を踏まえ、以下では決算早期化がもたらす影響について見ていくことにする。