有限責任監査法人トーマツ
エンタープライズリスクサービス部 シニアマネジャー
冨田 昭仁

 前々回前回は、IFRS(国際会計基準)が研究開発費プロセスに与える影響について解説した。今回と次回では、決算・財務報告プロセスを取り上げる。今回は見積もり・判断が必要となる分野を、次回は決算早期化を中心に解説する。

 決算・財務報告プロセスにおいて、見積もりにかかわる業務は非常に重要であり、IFRS導入による影響も少なくないと思われる。以下、引当金、繰延税金資産の回収可能性および貸倒引当金(金融資産の減損)など、会計上の見積もりが必要となるトピックについて、IFRS導入による影響や、業務プロセスおよび内部統制に与える影響を解説する。

引当金

 IAS第37号(引当金、偶発負債及び偶発資産)10項では、引当金を「時期または金額が不確実な負債」と定義している。ここでいう負債とは、概念フレームワーク(財務諸表の作成及び表示に関する概念フレームワーク)によれば、「過去の事象から発生した企業の現在の債務であり、これを決済することにより経済的便益を包含する資源が当該企業から流出する結果になると予想されるもの」(4.4(b))のことである。

 日本基準では引当金の計上要件について、企業会計原則注解18に記載がある。IFRSと日本基準との相違点をに示す。

表●引当金についてのIFRSと日本基準の相違点
IFRS日本基準
1. 企業が過去の事象の結果として現在の債務(法的または推定的)を有している
2. 当該債務を決済するために経済的便益をもつ資源の流出が必要となる可能性が高い
3. 当該債務の金額について信頼性のある見積もりができる。
1. 将来の特定の費用または損失である
2. その発生が当期以前の事象に起因する
3. 発生の可能性が高い
4. 金額を合理的に見積もることができる

 IFRSでは1.のように、日本基準のような当期以前の事象であることだけでなく、現在の債務性の有無を要件としている。また、ここでいう債務は企業の経営者の意思決定のみでは発生せず、常に相手方が存在する(社会全般が相手方となる場合もある)としている。

 日本基準では従来、修繕引当金などの非債務性引当金も引当金と見なされていた。IFRSではIAS第37号の要件を満たさないため、引当金としての処理は認められない。貸倒引当金などの評価性引当金については、IAS第37号の範ちゅうではなく、金融資産の減損の枠組みの中で取り扱われることになる。

 今回のテーマである「見積もり」について、IFRSは「当該債務の金額について信頼性のある見積もりができる」との要件を設けている。この「信頼性のある見積もり」は極めてまれな例外を除き、企業は起こり得る結果をある程度絞り込むことによって、十分に信頼性のある見積もりを実行できるとしている。以下、IFRSの導入により影響を受ける可能性のある特徴的な引当金について解説していく。