有限責任監査法人トーマツ
エンタープライズリスクサービス シニアマネジャー
辻 さちえ

 前回と今回では、研究開発費プロセスを取り上げている。前回は研究開発費に関するIFRS(国際会計基準)と日本基準との相違点と資産化の現状を中心に説明した。今回は、IFRSが研究開発費プロセスおよびその内部統制にどのような影響を与えるかを中心に説明したい。

研究開発のマネジメントと資産化認識の時点

 研究開発は一般的に、図1のように区分される。

図1●研究開発マネジメント
図1●研究開発マネジメント

 通常は一定時点でゲートを設けて、研究開発のプロジェクトを管理している。ゲートを通過する際には、会議体で研究開発の有効性や効率性などを勘案して、研究開発を続行するのか撤退するのか、投資額をいくらにするのか、といった意思決定を行うケースが多いと考えられる。

 開発局面での開発活動では、研究で培った「技術」を「製品」として事業化することを目指す。このため、研究段階に比べてより多額の投資が必要となる場合が多い。しかも、開発段階が進行するにしたがって投資額は累積的に増加していく。

 そこで製造業をはじめ研究開発を行っている多くの企業は、いくつかのゲートを設けるとともに、ゲート通過のための判断基準ならびに会議体を持っているはずである。、ここでいう判断基準とは、技術的な実現可能性や販売可能性、将来キャッシュフローなど、開発を続行するかどうかを判断するための基準を指す。

 ゲートとなる会議体の名称は企業により異なるが、「審査会議」や「評価会議」などと呼ばれる(図2)。これらの会議体で「ゴー」と判断すれば、次の開発段階などに進むことになる。

図2●開発局面における判断ゲート
図2●開発局面における判断ゲート

 このゲート通過のための会議は通常、製品化が近くなれば近くなるほど様々な担当者が参加するようになる。例えば開発部門だけでなく、関連する事業部やトップマネジメントを含めて議論して判断を下す。加えて、ゲート通過のための判断基準として「開発製品から得られるリターン」といった定量的な数値も含まれることになろう。

 以上の前提のもとでIFRSの資産化の要件を見ていくと、開発局面におけるゲート通過のためのいずれかの要件と類似していると思われる。すなわち研究開発費プロセスを適切に整備している企業にとって、IFRSにおける資産化の時点を判断することはそれほど困難ではないだろう。