アビームコンサルティング
シニアコンサルタント
菊本 善夫

 IFRS(国際会計基準)基準書(IFRS国際財務報告基準、中央経済社)の読み解き方を説明する本連載も今回が最終回です。前回から基準の時間軸に焦点を当て、「変わり行くIFRS」を取り上げています。

 前回は基準改訂のプロセスを中心に説明し、基準改訂の進捗状況や方向性を把握するには、改訂途中の文書であるディスカッション・ペーパーと公開草案に注目することが有効であると述べました。今回は基準改定途中の文書であるディスカッション・ペーパーと公開草案の具体例を見ていくことにします。最後に、2010年版の基準書についても触れたいと思います。

収益認識プロジェクトのディスカッション・ペーパーと公開草案

 連載の第4回第5回では、IAS第18号「収益」を取り上げました。この基準も改訂対象の一つです。

 IASB(国際会計基準審議会)とFASB(米国財務会計基準審議会)のメンバーから成る収益認識プロジェクトでは、IAS第18号「収益」を含む収益認識に関する基準の包括的な見直しを進めています。収益認識プロジェクトでは、2008年12月にディスカッション・ペーパー「顧客との契約における収益認識についての予備的見解」を、2010年6月に公開草案「顧客との契約から生じる収益」を公表しました。最終的な基準は2011年4~6月に公表される予定です。

 ここでは、収益認識プロジェクトのディスカッション・ペーパーと公開草案を題材として、これらの文書からどのようなことがわかるのか具体的に見ていきます。

 なぜ収益認識に関する基準を改訂する必要があるのでしょうか。ディスカッション・ペーパーには米国基準とIFRSのそれぞれについて、現行基準の問題点が記載されています。

 米国の一般に公正妥当と認められる会計原則(GAAP)において、収益認識のガイダンスは100以上の基準(多くは産業固有の基準であり、一部は経済的に類似する取引に対して矛盾した結論を導く可能性がある)から構成されている。

 IFRSにおいて、2つの主要な収益認識に関する基準(IAS第18号「収益」およびIAS第11号「工事契約」)の基礎をなす原則は矛盾しており曖昧で、単純な取引以外に適用することが難しい場合がある。

(ディスカッション・ペーパー「顧客との契約における収益認識についての予備的見解」S2)

 収益認識プロジェクトはIFRSと米国会計基準のいずれの収益基準にも問題があると認識しており、これらの問題点を克服した共通の基準を開発しようとしていることがわかります。