ビジネスブレイン太田昭和
会計システム研究所 所長
中澤 進

 米SEC(米国証券取引委員会)は2010年10月29日、米国にIFRS(国際会計基準)を適用する際の各種影響を検証する「ワークプラン(Work Plan)」プロジェクトの中間報告を公表した。

 SECは今年2月に、米国におけるIFRS適用の延期に加えて、SECスタッフによるワークプランを実行することを発表(本連載「米SECによるIFRS声明の意味」を参照)。10月までにワークプランの経過を報告するとしていた。予定通り、中間報告が出たことになる。

 ワークプランの中間報告書は40ページに及ぶ(原文は、SECのWebサイトから入手できる)。以下、中間報告書の内容を俯瞰し、米国のIFRSに対する動きを考えてみたい。

「アドプション」ではなく「インコーポレーション」

 中間報告書ではプロジェクトの背景に加えて、以下の6項目に関して状況を説明している。

  1. 米国内の報告基準としての十分なIFRSの開発および適用性
  2. 投資家の利益になるような基準開発の独立性(IASBの基準設定機関としての独立性)
  3. IFRSに関する投資家の理解および教育
  4. 規制制度への影響(SECの報告様式、業界ごとの規制、税法、監査基準、投資会社の報告、公開および非公開企業)
  5. 企業への各種影響(会計システムの再構築、契約書の変更、企業統治にかかわる規制、訴訟にかかわる対応、大企業および中小企業双方への影響)
  6. 人的資源の整備(投資家、作成者、規制当局等の教育・訓練および監査人の受け入れ体制など)

 この6項目は、2月に発表したものと同じだ。最初の二つはIFRSそのものとルール設定に関する検討事項、後の四つは移行に関する検討事項である。中間報告書では1と2に多くのページを割いている。

 報告書全体としては、IFRSをいかに米国の財務報告システム、すなわちUS-GAAPに取り込んでいくかに焦点を当てている。そのために上記の六つの観点から、SECあるいはFASB(米国財務会計基準審議会)としてのスタンスを再度明確にしようとしている。

 この報告書は一義的には「米国の企業および投資家にとってどうか」という視点で作成されている。ただし、検討対象は米国内に限らず、海外のIFRS導入企業や規制当局、監査法人などから情報を幅広く収集している。国際的な様々な視点からIFRSという会計基準を再検証しようとするSECのスタンスとプライドが見受けられる。

 注目されるのは、報告書で「アドプション(adoption:適用)」という言葉を一切使用していないことだ。代わりに「incorporation of IFRS into the US financial reporting system」といった具合に、「インコーポレーション(incorporation:取り込み)という言葉を随所で用いている。

 2007年8月24日におけるFASBハーツ議長(当時)の声明では、「2011年6月にIFRSへのアドプションを行うかどうかを決定する」と言っていた。この時点では「アドプション」という言葉を明確に使っていたわけだ。現在は、トーンがかなり異なっているように思える。SECは、従来言われているような単純なアドプションの路線を必ずしも取らないと見受けられる。

 このあたりは、あくまでも筆者の理解レベルに基づく私見である。いわゆる英語表現の世界では、米国における基本的スタンスは変化していないことも考えられる。