本格的な“情報爆発”時代を迎え、企業や社会における情報活用戦略は大きく変わろうとしている。そのときCEO(最高経営責任者)は何を求めるのか、CIO(最高情報責任者)の存在価値はどこにあるのか。これからの企業とITなどについて、ITリサーチ最大手の米ガートナー リサーチのバイスプレジデント兼フェローであるマーク・ラスキーノ氏に聞いた。(聞き手は志度昌宏=ITpro

ITが経営に与えられる価値を最大化するには、CIOの取り組みはもとより、CEOの決断・支援も必要だ。CEOは今、どんな課題に直面しているのか。

 ガートナーでは、CEOや上級役員への独自調査や広範なビジネス情報源から、2010年から2012年のシナリオを描き出した。そこから、CEOが抱える主要課題とITへの影響が浮かんできた。具体的には、次の七つである。

(1)ITへの確信が揺らいでいること。これにより、IT予算はおそらく横ばいが続く。

(2)社内で生じるキャッシュフローが成長資金であり、これを維持すること。キャッシュ指標を直接左右するITプロジェクトの事例に興味がある。

(3)経営効率を高めることに投資すること。ITによって構造的なビジネスコストを削減したい

(4)成長のために革新を採用すること。EC(電子商取引)や、ソーシャルネットワーク、スマートフォンなど、“テクノロジー化”した市場に対し、ITによって新商品/サービスを投入したい

(5)政治色が強まる経済に取り組むこと。法規制に迅速に対応することで罰金などを回避できるよう、戦略的な情報がほしい

(6)長期的な持続可能性が必要なこと。環境問題など持続可能性のメガトレンドに対処するために、新たな戦略情報環境が必要

(7)後継者を誰にするかということ。ITに精通した将来のビジネスリーダーが必要

 長期的な視点で総括すれば、「CEOの65%が、ITが2010年代と2020年代の自社業界に、これまでになく大きな戦略的価値をもたらすと考えている」ということだ。

これまでのCEOは、テクノロジーは難しいとして、どちらかと言えば避けてきた印象がある。CEOの理解が深まったのか。

 2000年の初め、インターネットの普及によりCEOがテクノロジーを重視するようになったが、その後に経済環境が悪化したことで、CEOは「(テクノロジーという)やっかいごとは考えなくても良い」と思うようになった。

 経済が弱含みな状態は、しばらく続くと考えられる。それだけにCEOは、より包括的な視点、すなわち価値のイノベーションや効率化によって、顧客や収益をどう獲得するかに意識が向いている。

 そこでは、イノベーションや既存概念を破壊する要素を探し出さなければならない。規制も破壊要素だが、テクノロジーもまた破壊要素だ。テクノロジーがやっかいごとだという気持ちは、そう変わっていないが、より容易な方法、すなわちテクノロジーを使った方法で収益を得たいとの思いは強まっている。

 CEOが求めているのは、「収益を高めるためにITは何ができるのか」という問への回答だ。テクノロジーの導入推進者だったCIOは、何も答えられないだろうし、答えの見つけ方すら分からないだろう。収益に貢献できないCIOには、厳しい時代になっている。

ガートナーは、CIOには起業家精神が必要ともいう(関連記事『技術が変わればCIOの役割も変わる』)。優秀な人材なら、企業内CIOではなく本当に起業するのではないか。

 起業家になることと、起業家精神を持つことは異なっている。起業家精神を持つということは、「ある程度のリスクが取れ、オーナシップを発揮できる」ということだ。