IT業界でプロとして活躍するには何が必要か。ダメな“システム屋”にならないためにはどうするべきか。“システム屋”歴30年を自任する筆者が経験者の立場から、ダメな“システム屋”の行動様式を辛口で指摘しつつ、そこからの脱却法を分かりやすく解説する。(毎週月曜日更新、編集:日経情報ストラテジー

ダメな“システム屋”常務の定例会議における指示
ダメな“システム屋”の会話 課長 「常務!それでは最後に、各プロジェクトへのご指示をお願いします」
ダメ常務 「うむ。まずAプロジェクトだけどなあ、未経験分野だから苦労があると思うが、無理はいいけど無茶はするなよ。多少の無理はいいが、無茶はいかんよ」
担当A 「はい、無理はしていいが無茶はダメってことですね」
ダメ常務 「うむ。次に、Bプロジェクトは規模が大きいだけに途中でやり直すことはできないからな。慎重にやらねばダメだ。絶対に失敗は許されん。無理が通れば道理が引っ込むと言うしな」
担当B 「はい、無理にならないようにせよということですね」
ダメ常務 「うむ。次に、Cプロジェクトは今、設計段階だからな、ここで間違えると開発段階が大変になる。言うまでもなく前の工程での手抜きは後ろに響くからな。設計はしっかりやらねばならん」
担当C 「はい、言うまでもなく前の工程で手を抜くな、ってことですね」
ダメ常務 「うむ。次に、Dプロジェクトはユーザーがうるさいからな。ま、うるさくないユーザーはいないけどな。いかに彼らを黙らせるか、これが問題だ。うるさい連中は本当にうるさいからな」
担当D 「はい、ユーザーはうるさいってことですね」
ダメ常務 「うむ」
課長 「はい、よろしいでしょうか。それでは、僭越(せんえつ)ながら常務のご指示をまとめさせていただきます。無理しても無茶するな無理が通れば道理が引っ込む言うまでもないことは言うまでもないうるさい連中は本当にうるさい。以上、ポイントは4点であります。それでは全員、今週もそれぞれがんばるように。常務!よろしいでしょうか?」
常務 「うむ。要するに、がんばれってことだな」
課長 「常務!ありがとうございます。それでは、全員、礼!」
担当A&B&C&D 「(大声で)常務!ありがとうございましたっ!」

ダメな理由:面倒な具体性を回避=無意味

 前回は流行語(バズワード)に振り回されやすい迷惑な上司について指摘しました。一方で、具体的な技術に関心を持たない困った上司もいます。

 “システム屋”の1人である私が課長クラスだったころ、「意味ナシおじさん」とあだ名されていた役員がいました。彼が部長クラスのころは「精神論部長」とか「精神注入会議」などと言われていましたが、役員に出世したころは“精神論”さえも超越してしまった感がありました。

 精神論が必要な局面というのは確かにあります。しかし、意味のない指示や説諭は時間の無駄であるばかりか、周囲のやる気を削ぐことにもなりかねません。

 「無理はいいけど、無茶はするな」がその役員の口癖でした。豊富な経験を基に、今が“無理”から“無茶”へと踏み出してしまいそうなタイミングだろうと推測してこの指示を下すならば、効果があったかもしれません。しかし彼の場合、単なる口癖でした。

 「プロジェクトの規模が大きいから気をつけろ」。これも口癖でした。ちょうど会社が成長を続けていたころで、プロジェクト規模は大きいものばかりでした。ですから単に「気をつけろ」と言っているのと変わりありません。形式的な進ちょく報告と、意味ナシ指示だけの会議がいかに時間の無駄だったことか。

 一方で、プロジェクトの規模が大きくなるにつれて、様々なプロジェクトマネジメント手法が生み出され、同時に成功体験や失敗体験が蓄積されていった段階では、経験豊富な上司のタイムリーな助言はとても効果的でした。プロジェクトの何がどれだけ遅れていて、その理由が何かによって、軽微な問題か致命的な問題かを見抜く鋭さを持った先輩もいたものです。

 「前の工程は後ろに響く」「ユーザーはうるさいぞ」。これも、この「意味ナシおじさん」がよく使ったフレーズです。新入社員以外の全員が、言われなくても分かっていることでした。

 役員の立場で、具体的なことを質問したり指摘したりすると、専門用語が飛び交ったり、特殊事情を長々と説明されたりしてうんざりしてしまうと考えたのかもしれません。だから、具体性を回避し、精神論に走り、その結果、意味のない発言に終始するのです。専門用語と特殊事情があふれかえった“システム屋”の世界には、「意味ナシおじさん」が生息しやすい土壌があるのかもしれません。