1960 年生まれ、独身フリー・プログラマの生態とは? 日経ソフトウエアの人気連載「フリー・プログラマの華麗な生活」からより抜きの記事をお送りします。2001年上旬の連載開始当初から、現在に至るまでの生活を振り返って、順次公開していく予定です。プログラミングに興味がある人もない人も、フリー・プログラマを目指している人もそうでない人も、“華麗”とはほど遠い、フリー・プログラマの生活をちょっと覗いてみませんか。
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 最近私がはまっているのが、ネットワーク・ブート技術の一つであるPXE(Preboot eXecution Environment)だ。コンピュータを起動するために、一般的には、本体に装着したディスクのようなストレージ・デバイスに起動用のプログラムを仕込んでおく。ネットワーク・ブートの場合は、起動用のプログラムをネットワーク経由で他のコンピュータからダウンロードさせる。これによって複数のマシンの起動環境を一括管理し、CD-ROMやフロッピ・ディスクなどを持ち歩く手間が軽減される。

 この技術はネットワークの黎明期からあったし、多くのコンピュータが設置されているオフィスなどでは必ずといってよいほど導入されており、特に目新しいものではない。私も今まで知識としては知っていたが、少し試してみた程度でほとんど手付かずのままだった。にもかかわらず、今になって気になり始めたのは、仮想化技術と関連があるからだ。

 仮想化技術といえばVMwareが有名である。私がシステム開発の手間を削減するためにVMwareを使い始めたのは2002年ごろのことだ。サーバー側のシステム開発担当として、一度完了したプロジェクトの開発環境をどうするかは悩みの種だった。おそらく他の企業でも同様だろう。

 この悩みを解決してくれるのがVMwareだった。軽いシステムなら最初から仮想環境下で開発を始めてもよいし、プロジェクトが完了した時点で仮想環境に移行するのでもよい。仮想環境を保管しておけば、古いシステムであったとしても、いつでもどこでも動かせる。おかげで最近は、一つのマシンをマルチブートにして複数の環境を切り替えて作業する必要がなくなった。いい時代になったものだ。

 ただ、ここに新たな問題が生じてきた。数多くの仮想環境の管理である。この手の要望に応じる専用ツールが存在しないわけではないが、それを使うよりも先にこういったツールが使っている技術に精通しておきたいと考えた。その一つがネットワーク・ブートなのである。

 このように、特定の技術にターゲットを絞って習得するのは、私にとっては今に始まったことではない。一応肩書きはプログラマということにしてあるが、実際は上から下まで何でもこなせる技術者という触れ込みで売っているつもりだ。必要があればデータセンターの選定からネットワーク設定、マシンのセットアップまでを手がけるし、顧客と折衝して仕様を詰めて開発し、サービス開始後は保守運用までこなす。ソフトウエア開発でそれなりのポジションに置かれれば、開発手法の改善提案まで視野に入れる。そういう技術者を目指している関係から、ネットワーク・ブート技術に精通しておくと何かよいことがあるかも、と思ったのだ。

 しかし、だからといって、この技術が今すぐ何かの仕事、案件につながるのか、と聞かれると、残念ながら歯切れの悪い答えしか返すことができない。私にいつも有用なアドバイスをくれる知人にも似たようなことを言われたばかりである。OSのバージョンがどうとか、システム設定がこうだなどという世界はそろそろ卒業して、もっとインターネット・ビジネスの方に注力してはどうか。上から下までできる人材というのは、インターネット黎明期にはそれなりに重宝されたが、既にそういう時代ではなくなっているというのだ。

 かくいう彼はどうかというと、インターネット・ビジネスでそれなりに飯を食っていて、私に比べたらかなりまともなポジションにいるし、将来性も感じられる。私としてはちょっとうらやましいのである。

 ただ、私が彼と同じことをしようとしても無理がある。なぜなら彼には発想力もあるし、人脈もある。一方、私には技術しかない。自分でこう言い切れるのも幸運な方なのかもしれないが、技術だけでビジネスができるわけではない。今までと違う何かをしないと「ちょっと器用だけど、結局何もできなかった」人で終わってしまう。あまりにもさびしいではないか。

 こんなことを考えて悩んでいるとき、あるセンテンスを目にした。引用元は失念してしまったし、正確ではないかもしれないが、こんな主旨だったと思う。「私が蔓(つる)を延ばす先に、必ず太陽があるとみんなが言います。でも、私はただ光のある方向に蔓を伸ばしているだけなのです」。自分の本能のおもむくまま、問題解決という快楽を求めるだけの技術者であっても、こういう風になれたらハッピーだと思うのだが、今の私にはこの境地にたどり着ける自信がない。