「電波政策はこれで大転換を迎える」---。内藤正光総務副大臣(当時)は、2010年8月26日に総務省で開催された「ワイヤレスブロードバンド実現のための周波数検討ワーキンググループ(WG)」の会合の終わりをこのように締めくくった。WGはこの日の会合で、周波数再編に向けた様々な施策の方向性を示す中間とりまとめ案を提出。また同時期に総務省の「電波利用料に制度に関する専門調査会」も大胆な基本方針を固めた。両者が打ち出した方針は、これまでの路線を覆す大胆な施策になっている(図1)。具体的には「移動体向けに2025年までに1.5GHz幅以上の周波数帯を確保」「周波数再編を加速するため、オークションの導入も検討」「700M/900MHz帯の再編を検討」といった項目だ。

 この内容に関係者は一様に驚いた。まさに日本の電波政策が動いた瞬間と言える。

図1●周波数再編を加速する制度の導入へ
図1●周波数再編を加速する制度の導入へ
総務省のICTタスクフォース「ワイヤレスブロードバンド実現のための周波数検討ワーキンググループ」は8月末に中間とりまとめとして、周波数再編に向けた施策をまとめた。また同時期に総務省の「電波利用料に制度に関する専門調査会」も基本方針を固めた。両者の主なポイントはこの3点。新たな施策の導入によって、これまで10年近い時間を必要とした再編のスピードを2~3年に短縮できる見込みだ。

「再編に時間がかかる」「国際的に整合性がとれていない」

 携帯電話をはじめとする無線通信に無くてはならない周波数。日本での周波数の割り当ては、国民の共有財産である電波の公平かつ効率的な利用を確保するために、総務省が電波法に基づいて管理している。

 ただ、日本の電波政策はいくつかの課題に直面している。「いったん周波数を割り当てると再編するまでに10年近い時間がかかる」「周波数の割り当てが海外と整合性の取れていないケースがある」「周波数の事業者への割り当てプロセスが不透明」といった点だ。携帯電話のトラフィックが急激に伸び、新たな周波数の確保が急務になる中で、これらの課題がますますクローズアップされつつあった。

 内藤副大臣は本誌のインタビューの中で、「WGの中間とりまとめは、これらの課題に対してストレート球を決められた」と満足げな表情を見せる。これまで各社合計で500MHz幅程度しか割り当てられていなかった周波数帯を4倍までに広げるという大胆な方針、さらに周波数再編にかかる時間を10年から2~3年に短縮し、国際的に整合性の取れた割り当てを可能にする内容になっているからだ。

「高速道路の中に自転車道」と原口大臣、規定路線にNo!

 大転換の発端は、2010年初めから総務省内で進んでいた700M/900MHz帯の割り当て議論に対して、原口一博総務大臣(当時)が4月頭に「待った」をかけたことに始まる。

 700M/900MHz帯とは、地上デジタル放送への完全移行で空く700MHz帯と、第2世代携帯電話(2G)の終了に伴う周波数再編によって空く900MHz帯のこと。建物内などに電波が通じやすく、移動体に向くことから、“黄金周波数帯”とも呼ばれ、かねてから携帯電話事業者が獲得に向けて本命視してきた(関連記事1関連記事2)。

 2010年初めから総務省の情報通信審議会で始まった議論では、700M/900MHz帯をFDD(Frequency Division Duplex)システムの上下ペアの形で利用する形を念頭に置いていた。このような形態での利用は世界でも例がなく、外資系ベンダーを中心に「国際的に協調が取れた周波数配置にすべき」という声が高まった。ユーザーの利便性を損ない、国際的な競争力強化の面でも懸念があるというのがその理由である。

 ただ情報通信審議会は、周波数配置を議論する場ではないため、構成員の間からも「既に手遅れ」という声が挙がっていた。携帯電話各社も国際的な整合性よりも周波数確保を優先し、「現状の方針でやむなし」といった意見を打ち出していた。