この連載「ニコニコ動画開発記」は,筆者が開発と運用に携わる動画共有サイト「ニコニコ動画」のサービスインから現在までを,開発者の立場から振り返ってまとめるものです。
前回の「すごい勢いで進化」では,ニコニコ動画(γ)のサービスを提供したころから,やってきた“荒らし”や増え続ける負荷への対策,ニコニコ動画(RC2)の開発などを書きました。そこで誌面が尽きてしまいました。
今回は番外編として,2008年3月5日にサービスインしたニコニコ動画(SP1)の開発の様子と,ニコニコ動画開発チームのマネジメントを書いてみます。
ドワンゴ 研究開発本部 第二開発部 ポータル機能開発セクション セクション マネージャー
http://d.hatena.ne.jp/shinno/
新しいユーザーもニコニコさせたい
肌寒くなった2007年11月下旬,ニコニコ動画(RC2)の一連の機能を,本番環境へ投入し終えたころから振り返ってみましょう。2007年中は,前回の本連載でお伝えした,ニコ割*1によるカウントダウン*2や,ニコスクリプト*3の修正など,細かい作業を進めていました。
そうはいっても,やりたいアイデアは次々と出てきます。気が付けば作りたいもので山積みという状態です。筆者は,2008年春ごろをターゲットとして,ニコニコ動画の新バージョンをリリースする計画の検討を始めました。
年が明けた2008年,おおまかに投入する機能を決めることができました。これらの機能をまとめて,「ニコニコ動画(SP1)」として提供します*4。リリース時期は2008年の春を狙います。
このSP1で開発する機能は六つです(表1)。おおまかな狙いは,新しくニコニコ動画にやってくるユーザーを歓迎しつつ,作品を発表するユーザーを尊重して,もっと広くニコニコさせたい――というあたりでしょうか。
特にこのころ気になっていたのは,新しいユーザーの迎え方です。すでにニコニコ動画では,既存のユーザーによって,独自の“文化”と呼べそうなものができあがっていました。例えば,コメントやタグ,弾幕*5,動画のタイトルの付け方などです。これらは筆者含めてニコニコ動画ユーザーの多くが楽しめるものに育った一方,新しくニコニコ動画に来たユーザーにはとまどいの原因にもなりそうです。ニコニコ動画が,“自分とは違う人たちが楽しむ場所”だと感じられてしまったら,これはとてももったいないことです。
このように考えて「初心者ページ」を用意することにしました(図1)。このページには,簡単な案内文と,ニコニコ動画のコメントの入力方法,動画の探し方などの,ニコニコ動画の使い方を説明する動画へのリンクを設けます。さらに「トップページ」も,カテゴリタグ*6を強調して,大量に増えた動画の中から,ユーザー自身の興味にマッチしそうな動画にたどり着きやすいようにしました。