情報システムの“ユーザー企業”にとって、情報システムをどう活用すれば競争力を強化できるのか。ITベンダーやシステム・インテグレーターなどの営業トークや提案内容を見極めるうえで何に留意するべきか。ITベンダーなどに何かを求める以前に、“ユーザー企業”が最低限考えなればいけないことは何か――。

 野村総合研究所で約20年間勤務した後に、人材派遣大手スタッフサービスのCIO(最高情報責任者)を務めて急成長を支え、『ダメな“システム屋”にだまされるな!』(日経情報ストラテジー編)の著者でもある佐藤治夫氏が、情報システムの“ユーザー企業”の経営者・担当者の視点から、効果的な情報化のための発想法を解説する。(毎週月曜日更新)

 前回までは“ユーザー企業”がIT活用を推進する時に考えるべき点を述べてきました。今回は“企業”から離れて、公的サービス機関、すなわち官公庁、病院、学校などの組織における情報化について、課題を述べます。

 企業の情報化も公的サービス機関の情報化も、「法人向け」「エンタープライズ向け」の情報システムということでひとくくりにされることがあります。しかし、私が“システム屋”として企業と公的サービス機関の情報化を見てきた経験によると、この2つでは組織やそこで働く人の特性が異質です。当然、それを踏まえてIT活用を考えるべきなのです。

新人でもベテランでも同じ「先生」

 まず、公的サービス機関に所属する人の特性を考えてみます。例えば、学校では教員同士はお互いに「先生」と呼び合います。教員だけでなく、医師、弁護士なども、互いに「先生」と呼び合います。ベテラン医師でも新人医師でも必ず「佐藤先生」と呼び、決して「佐藤君」と呼ぶことはありません。

 第三者がこういった場面に遭遇すると、「互いに尊重し合っている」と好感を持てますが、違和感もあります。医師と、それ以外である看護師、看護助手、技師や、経理や事務などのスタッフを区別しているように感じられるのです。

 一般企業であれば、入社5年目の社員には必ず上司がいて、その上司にもさらに上司がいます。企業には社長を頂点とするピラミッドのようなツリー構造があり、権限と責任が分散したり統合したりという構図があります。

 しかし医師や教員の場合、5年目であっても「先生」であることに変わりはありません。先輩はいるでしょうが、上司と呼ぶべき存在がいるとは限りません。企業では、入社5年目の会社員と社長の関係はかなり遠いのが一般的でしょう。これと、学校における5年目の教員と校長の関係、5年目の医師と院長の関係と比較して考えてみれば、公的サービス組織における人間関係が、一般企業とはかなり異なったものであることに気づくでしょう。

 学校・病院に比べれば、官公庁はもう少し企業に近い組織体制に見えます。しかし、「キャリア組」「ノンキャリア組」という区別が、「先生」とそれ以外の人という区別に似ています。