ソフトバンクモバイルの次世代モバイル技術への取り組みは、どちらかといえば消極的な印象がある。NTTドコモが世界の先頭グループに合わせて2010年12月にLTEを導入するのに対し、ソフトバンクモバイルはLTEの導入時期をいまだに明確にしていないからだ。まずは既存システムから移行しやすい、最大42Mビット/秒のDC-HSDPAを導入することを明らかにしているのみだ。

 さらに同社はここ数年、有利子負債を減らすことに専念している。このため、設備投資を押さえ気味にした「インフラ軽視」とも言えるスタンスが目立っていた。さすがにTwitterなどを通じて「同社の携帯電話がつながりにくい」という声が多くなってきたのか、同社の孫正義社長が「電波改善宣言」として基地局数の倍増やフェムトセルの展開などインフラ改善に向けた取り組みを始めたところだ(関連記事)。

 もっとも同社がLTEの導入時期を明確にしていないのは、そのときの経営判断に左右される部分が多いためだ。実はいつLTEの導入が決まっても対応できるように、次世代モバイル技術のノウハウの取得を進めているという。例えば同社は、2009年5月に茨城県水戸市でLTEの実証実験を実施済み(関連記事)。このときは機材も古く、満足なパフォーマンスが出ていない様子だったが、2009年12月から2010年3月末にかけては北九州市八幡東区でLTEの実証実験を実施した。

 これは、総務省の2009年度のユビキタス特区の一環。LTEの特性の確認のほか、LTEの次の世代であるLTE-Advancedに向けた基礎実験も実施した。

写真1●実験を進めたソフトバンクモバイル技術統括研究本部ワイヤレスシステム研究センターの藤井輝也センター長
写真1●実験を進めたソフトバンクモバイル技術統括研究本部ワイヤレスシステム研究センターの藤井輝也センター長
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 実験を進めたソフトバンクモバイル技術統括研究本部ワイヤレスシステム研究センターの藤井輝也センター長(写真1)は、「3GPPの仕様に完全準拠したLTEのシステムがどの程度のパフォーマンスを出すのかを確認したかった。ソフトバンクモバイルとしては、現在議論が進んでいる700M/900MHz帯をぜひとも取りたい。この帯域はLTEの利用を前提にしないと周波数利用効率の面で獲得は難しいだろう。そのため、いつでもLTEのシステムを構築をできるように技術を蓄えておく必要がある。実際、10MHz幅で70Mビット/秒のスループットを実現できるなどかなりノウハウを蓄えられた」と語る。

 幸い、ユビキタス特区が終了する3月31日に実際の実証実験の様子を見学できた。以下、フォトレポートとして紹介する。

走行試験で60Mビット/秒強のスループットを記録

写真2●今回の実証実験の基地局構成
写真2●今回の実証実験の基地局構成
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 まずは実験の概要を説明しよう。利用した帯域は1.5GHz帯、片側10MHz幅。2×2 MIMOの空間多重、64QAMの変調方式を使ったLTEシステムである。理論上の下り最大速度は75Mビット/秒、帯域を20MHz幅を使った場合の理論値は150Mビット/秒となる。

 基地局は3局構成とした(写真2)。3セクター構成の東田局(写真3)と、東田局から1.5キロメートル離れた1セクター構成の八幡平野局、3キロメートル離れた1セクター構成の八幡東局である。八幡平野局と八幡東局は光変換装置とアンプの機能だけを備えた、いわゆる「光張り出し装置」による局だ(写真4)。基地局の主装置であるeNodeBは東田局に一緒に収容している(写真5)。光ファイバによって主装置と光張り出し装置をつなぐ構成だ。

写真3●実験局のアンテナ
写真3●実験局のアンテナ
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写真4●光張り出し装置による構成<br>屋上の装置は光変換装置とアンプだけなのでシンプル。遠隔地にある主装置(eNodeB)とは光ファイバで接続している。
写真4●光張り出し装置による構成
屋上の装置は光変換装置とアンプだけなのでシンプル。遠隔地にある主装置(eNodeB)とは光ファイバで接続している。
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写真5●東田局には3局分の主装置(eNodeB)とコア装置(Evolved Packet Core)を収容<br>ベンダー名は非公開となっている。
写真5●東田局には3局分の主装置(eNodeB)とコア装置(Evolved Packet Core)を収容
ベンダー名は非公開となっている。
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