写真1●50mの鉄塔に基地局を備え付けている<br>最上段が3G携帯電話のアンテナ。2段目がLTE実験用のアンテナ。
写真1●50mの鉄塔に基地局を備え付けている<br>最上段が3G携帯電話のアンテナ。2段目がLTE実験用のアンテナ。
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写真2●実験用の機器を搭載するバス&lt;br&gt;屋根にアンテナが付いている。
写真2●実験用の機器を搭載するバス<br>屋根にアンテナが付いている。
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写真3●バス内のモニターでは移動の経路や通信速度の変化などを確認できる
写真3●バス内のモニターでは移動の経路や通信速度の変化などを確認できる
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ソフトバンクモバイルは2009年5月29日,次世代携帯電話向け通信技術LTE(long term evolution)の実用化に向けた実験を公開した。実験場所は茨城県水戸市の赤塚駅周辺。3カ所の基地局(写真1)と,バスに搭載した移動局(写真2)の間で通信する様子を見せた。伝送速度は,電波状態の良い場所で最大13Mビット/秒を記録した。現状の実験環境では利用できる電波の周波数が狭いといった制限がある。将来,利用できる周波数の拡大や送信技術の高度化が実現すれば,100Mビット/秒以上の伝送速度が実現できるという。

 同社は2009年2月にLTE実験の免許を取得。3G携帯電話用の商用サービスに利用している鉄塔にLTEのアンテナを取り付けて,特性を検証している。「商用の3Gサービスと同様の環境でLTEの特性をテストすることで,どういうサービスを構築するか技術を蓄積する」(ソフトバンクモバイル 技術総合研究室無線システム技術開発センター竹中哲喜センター長)ことが実験の目的である。

 実験に使っている周波数の幅は2.88MHz。MIMO(multiple-input multiple-output)は送受信ともに2本のアンテナを使う2×2方式。電波の状態がよければ伝送速度は最大で17Mビット/秒が出るという。将来,周波数の幅を10MHzに拡大し,MIMOを送受信ともに4本のアンテナを使う4×4方式にした場合は106Mビット/秒になるとする。

 実験に使った装置は中国ファーウエイ・テクノロジーズ製。「商用機器に近い実験装置を提供しており,LTEの標準化作業でも活躍が目立つ」(筒井多圭志 執行役員 兼 CS技術総合研究室長)ことが,ファーウエイ・テクノロジーズ製を選択した理由という。

電波状況に合わせて変調方式を変更

 実験装置を積み込んだバスの中では,一般道路を走りながら実験をする様子も見せた。バス内部のモニター(写真3)では,通信の状態や伝送速度が変化する様子をリアルタイムで表示した。それによると,電波の状態に合わせて変調方式が変化する様子も確認できた。電波状態が良い場所では64QAMの変調方式で接続し,状態が悪くなるにつれて16QAMやQPSKに変調方式を変化させていた。

 まず,MIMOを使わない状態で走行中に通信した場合の伝送速度は約5Mビット/秒だった。実験で利用する電波は2GHz帯で,3G携帯電話サービスに隣接する周波数帯を使っているものの,現状のサービスに影響を及ぼすことはないという。

 走行しながら通信速度を測定していると,急に通信速度が落ち込むこともあった。これは,電波の強度に合わせて通信をする基地局を切り替えるハンドオーバーがうまく動作しなかったからだという。今回の実験機器では,基地局のアンテナごとに異なる識別信号を入れる機能を使っていないため,ハンドオーバーが失敗しやすいのだという。ただし,この問題は商用機器では解消される予定である。

 次に,電波の状態が良いと思われる地点にバスを止めて,MIMOを使う状態に切り替えた。この場合の伝送速度は最大で約10Mビット/秒に向上した。さらに電波の状態の良い場所を探すために,走行しながらMIMOの通信を続けていると瞬間的には13Mビット/秒にまで到達することもあった。

 なお,ソフトバンクモバイルでは,高速化技術としては現状の携帯電話で利用されているHSDPA(high-speed uplink packet access)を改良したHSPA+を採用する予定。LTEはその後に導入する次世代規格と位置づけている。