本連載は、筆者が2006年に担当した内部統制に関する連載以降の内部統制に関する法律、判例など一連の法環境の変化につき、アップデートするものである。前回は総論として、この4年における内部統制に関する法環境の変化の全体像を俯瞰した。

 今回と次回では、会社法における内部統制について解説することとする。

会社法上の内部統制に関する現状の法制度

 会社法の施行により、大会社は会社法の定める内部統制を取締役会決議によって定めることが求められ、施行後はその対応に追われた。

 大会社とは「最終事業年度の貸借対照表上の資本金の額が5億円以上または負債の合計額が200億円以上の株式会社」(会社法第2条第6号)のことである。会社法の定める内部統制とは、「取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備」(同第362条第4項第6号)を指す。

 現在は、各社とも取締役会において決議した決議内容に基づき運用を行っている段階である。会社によっては、決議内容を変更あるいは見直したケースもある(特に取締役会の改選がなされたような場合)。

 金融商品取引法は「J-SOX対応」などといわれたように、もともと米国のSOX法を意識したものである。これに対し、会社法上の内部統制は、我が国の取締役の善管注意義務(会社法第330条、民法第644条)および同義務が問題となった判例を具体化したものである。

 この会社法上の内部統制は、会社法および会社法規則という法令レベルでは、施行後現在に至るまで特に改正はない。もっとも同法および同規則の規定は、会社法上の内部統制の「原点」であることから、今一度押さえておく必要がある。

 会社法施行規則は、会社法が「取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制」(会社法第362条第4項第6号)との規定とともに定める「その他株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備」(同)について、政令として以下のように定めている。

  1. 取締役の職務の執行に係る情報の保存及び管理に関する体制(会社法施行規則第100条第1項第1号)
  2. 損失の危険の管理に関する規程その他の体制(同条第1項第2号)
  3. 取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制(同条第1項第3号)
  4. 使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制(同条第1項第4号)
  5. 株式会社並びにその親会社及び子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制(同条第1項第5号)
  6. 監査役がその職務を補助すべき使用人を置くことを求めた場合における当該使用人に関する事項(同条第3項第1号)
  7. 前項の使用人の取締役からの独立性に関する事項(同条第3項第2号)
  8. 取締役及び使用人が監査役に報告をするための体制その他の監査役への報告に関する体制(同条第3項第3号)
  9. その他監査役の監査が実効的に行われることを確保するための体制(同条第3項第4号)

 会社法制定当初は、各会社法規則の定めにつき、どのような対応が求められるかにつき議論がなされていた(詳細は「会社法に対応した内部統制の実際」を参照)。

 その後、会社法が制定されて数年がたち、現在では上記の各条項について各社ともに対応を進めているところである。すでに一定の実務・平均的な水準といったものもみられる。

 この点で参考になる資料を二つ紹介したい。どちらも、代表的な取引所である東京証券取引所が発表したものである。一つは、上場株式会社が提出した「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」。もう一つは、各社の同報告書をまとめた「コーポレート・ガバナンス白書2009」に掲載された、内部統制システムに関する報告書記載欄のアンケート調査である。