前回では,今年5月より施行された会社法の概要と、会社法に規定されている内部統制についての条文を紹介した。本稿では、企業が会社法に基づき、内部統制について実務上どのような対応をとっているか、について解説する。また、本稿の後半から次回にかけて、6月初旬に成立した金融商品取引法について説明していく。

 前回解説したとおり、会社法は「企業は内部統制に関して、具体的にどういった内容の体制整備が求められているのか」、あるいは「どのような内容の内部統制システムを構築すれば、法律上十分なのか」ということについて,答えを与えていない。内部統制システムとして構築すべき項目を挙げているにすぎない。

 つまり、企業が構築すべき内部統制システムの具体的な内容は,業種や規模、当該企業の個別事情(事業の統制環境、リスク、過去の法令遵守に対する取り組みなど)によって異なるから,それらは各企業が個別に決定してください、というのが基本的な法律のスタンスなのである。

 それでは、実際に企業は、会社法に基づく内部統制として、実務上どのような体制を構築しているのだろうか。各社はそれぞれの個別事情に対応しながら試行錯誤する一方、会社法施行に先立って内部統制の構築が義務づけられていた「委員会等設置会社(第3回を参照)」における内部統制システムの態様や、従前からコンプライアンスやリスクマネジメントの体制作りに取り組んできた企業の事例を参考にしているようである。

 本稿は主にIT部門の方々に概要を説明することを主な趣旨としているため詳細な記述は避けるが、各社は概ね以下のような体制作りを進めている。前回解説した会社法施行規則100条1項と同条3項の各項目に沿って、具体的な取り組みの例を列挙した。

(1) 取締役の職務の執行に係る情報の保存及び管理に関する体制(会社法施行規則100条1項1号)
文書管理規程、情報管理規程等の社内規程の整備、会議録、議事録、稟議書の作成・保存、文書・保存管理の責任者の選定、文書管理規程の作成者の明定など

(2) 損失の危険の管理に関する規程その他の体制(同条1項2号)
リスク管理規程、危機管理規程、各種取引規程、採算規程などの社内規程・ガイドラインの整備、リスク管理統合部署の設置、研修の実施、社員向けマニュアルの作成・配布など

(3) 取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制(同条1項3号)
長期・短期経営計画の見直し・編成、情報伝達システムの見直し、職務権限規程、稟議規程などの社内規程の整備、効率的な職務執行に向けた組織体制全体の整備など

(4) 使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制(同条1項4号)
倫理綱領、コンプライアンスマニュアルなどの作成、コンプライアンス委員会、内部統制監査部門、内部通報制度などのコンプライアンス体制の実現に向けた体制整備など

(5) 株式会社並びにその親会社及び子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制(同条1項5号)
グループ会社管理、グループ会社監査などに向けた規程類、および、組織体制の整備(各グループ会社における法令遵守・リスク管理部署の設置、本社の担当部署との情報共有・協議体制の確立)など

(6) 監査役がその職務を補助すべき使用人を置くことを求めた場合における当該使用人に関する事項(同条3項1号)
監査役事務局、監査役室等の設置など

(7) 前項の使用人の取締役からの独立性に関する事項(同条3項2号)
人事考課・異動などに関する監査役の権限など

(8) 取締役及び使用人が監査役に報告をするための体制その他の監査役への報告に関する体制(同条3項3号)
監査役への報告義務、重要会議への出席など

(9) その他監査役の監査が実効的に行われることを確保するための体制(同条3項4号)
内部監査部門・監査法人との定例会議、監査役会による外部アドバイザーの任用など

 繰り返しになるが、注意すべきは、青字で記載したような規程集や社内体制を整備することを,会社法が明示的に要求しているわけではない、ということだ。つまり、これらを構築したからといって、直ちに法律上、内部統制が十分だと認められるわけではない。

 しかし、これらは「従前から内部統制の構築の義務が課されてきた委員会等設置会社では,こういった規程を整えていることが多い」、「会社法施行前からコンプライアンスやリスクマネジメントの体制を整えてきた会社の多くが、このような対応をしている」といったことから、会社法の各条文に対応した規程集や体制として、実務上のデファクトスタンダードになってきている。他社事例を参照し、業界水準に留意しながら、各社の個別事情に応じた体制を構築する、というプロセスにおいて、十分配慮する必要がある。

金融商品取引法における内部統制

 読者もすでにご存知のように、さる6月7日、投資ファンドの規制や不公正な株式取引の罰則強化を盛り込んだ金融商品取引法(投資サービス法)が、参院本会議で与党などの賛成多数で可決、成立した。

 この法律は、「横断化」、「柔軟化」、「投資サービス規制」、「開示制度の充実」を主な内容とする。横断化とは、投資性の強い金融商品に対して、隙間なく同等の規制を施すこと(縦割り規制から横断的な規制へ)。柔軟化とは、商品が対象とする投資家の知識・経験(プロ向けか一般向けか)や、商品類型などに応じて、差異のある規制を課すこと、である。

 現在、証券取引に関する基本法としては証券取引法が存在するが、同法に代わり新たな証券取引の基本法となるのがこの金融商品取引法である。従来からいわゆる「日本版SOX法」と呼ばれ、内部統制に関する経営者の報告書や監査証明の義務づけが議論されてきた部分についても、金融商品取引法で規定されることとなった。

 同法の成立をもって、これまで必ずしも明らかでなかった「日本版SOX法」の具体的な内容は、金融商品取引法の一部として条文化されることで確定した。そこで以下では、金融商品取引法における内部統制に関する規定について解説する。

 まず注意していただきたいのは,この金融商品取引法は,いわゆる日本版SOX法という形で議論されてきた部分だけを定めた法律ではなく,金融商品に関する取引を網羅的に定めた、対象範囲が非常に広い法律である、ということである。例えば、有価証券の定義について、これまで対象となっていなかった組合持分にも適用されることが規定された。金融商品取引業においても、これまで証券取引法以外の法律で規定されていた部分が、金融商品取引法で網羅的に規定されている。

 また、昨今、M&A(企業の合併・買収)が非常に盛んになっているが,これまでいろいろな問題点が指摘されていた株式公開買付制度の不備についても見直され,適用範囲や手続きの明確化も行われた。さらに大量保有報告書の制度についても,迅速な提出義務などの見直しがなされている。

 このように金融商品取引法にはさまざまな制度趣旨に基づく規定が存在するが、そのなかに、企業内容の開示制度の整備に関する規定も含まれている。そして、この企業内容の開示制度に関する規定の1つとして、内部統制報告書とその監査証明の提出義務が法定化されたのである。

 要するに、金融商品取引法のうち,日本版SOX法と呼ばれている部分はごく一部に過ぎない。次回では、米国におけるSOX法制定の経緯と、金融商品取引法における内部統制の規定について解説する。

次回へ

大 毅(だい つよし)
1999年3月,慶応義塾大学法学部法律学科卒業。2000年10月,弁護士登録。森総合法律事務所(現・森濱田松本法律事務所),阿部井窪片山法律事務所で知的財産法などを中心に執務。東京大学大学院工学系研究科先端学際工学博士課程専攻(知的財産法・技術移転法)を経て,2005年10月,千代田区主催のベンチャーインキュベーションセンター「ちよだプラットホームスクウェア」内にて独立開業。東京大学先端科学技術センター 知的財産権大部門 協力研究員就任。