第2回でホームICT基盤とよく似ていると説明したパソコンの世界では,アプリケーションとハードウエアを分離したことで,周辺機器とアプリケーションの進化が別々に起こり,それぞれの市場が急速に発展した。同様の環境をホーム・ネットワークで実現できれば,「ホームICTのサービスと,ホームICTにつながる機器が別々に進化する環境を実現できる」(NTTサイバーソリューション研究所第一推進プロジェクト ホームICTサービス開発DPの伊藤昌幸ディレクタ)。

サービスと機器を分離,別サービス間の連携も

 現在,ホーム・セキュリティのサービスでは,サービス事業者自身が,専用の機器をサービスと合わせて提供している。例えば,自社供給の人感センサーを玄関に設置し,何か危険を察知したときには,やはり自社製の警報装置で通知する。サービスと機器を分離できれば,他社から警報装置やセンサーが登場することを期待できる。

 その先には「サービス同士をマッシュアップする環境も考えられる」(北陸先端科学技術大学院大学情報研究科の丹康雄教授)。例えば警報装置は,アラーム専用の装置である必要はない。誰かが,ユーザー宅のテレビやステレオを警報装置として動かすサービスを開発すれば,その装置から既存のセキュリティ・サービスを使うことができるだろう。

 サービスが実用化されないことには何も始まらないが,ホームICTはスケールの大きなサービスに育つ可能性を秘めている。

NTTコムも今年中に企業向けを展開

 NTT持ち株会社の動きとは別にNTTコミュニケーションズ(NTTコム)も現在,ビジネス向けにホームICTに似たサービスを開発中だ。

 ターゲットは数十人程度の規模のオフィス。大企業でもネットワーク管理者がいない支店や支社は対象になる。ユーザーのオフィスには,HGWに相当する「ビジネスゲートウェイ」(BGW)を設置し,これを使って企業向けのネットワーク管理サービスを提供する(図1)。BGWのソフトウエアをセンター側から追加・交換能にするなど,基本的な動作モデルはホームICT基盤と同じである。

図1●NTTコミュニケーションズが開発中のサービス提供基盤「ビジネスゲートウェイ」<br>ビジネスゲートウェイにさまざまなソフトウエアを追加できる仕組みを用意する。これにより,多様なサービスを1台のゲートウエイ装置で実現可能になる。
図1●NTTコミュニケーションズが開発中のサービス提供基盤「ビジネスゲートウェイ」
ビジネスゲートウェイにさまざまなソフトウエアを追加できる仕組みを用意する。これにより,多様なサービスを1台のゲートウエイ装置で実現可能になる。
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 現在NTTコムが考えている,BGWを使った主なサービスは,(1)携帯電話やモバイルWiMAX回線によるWAN回線のバックアップおよび障害の切り分け,(2)BGWの設定の自動化,(3)構内端末の管理──の三つである。

 (1)は主回線である光ファイバの通信が途絶えたときに,これを検知して自動的に無線につなぎ替える仕組み。そのためのソフトウエアは,あらかじめBGWに組み込んである。さらにBGWのソフトウエアがセンター側のシステムと通信し,不通の原因を究明する。

 (2)はBGW設置時の作業を軽減させるためのもの。あらかじめBGWに認証情報を入れておき,現地でネットワークにつなげると,それをトリガーにBGWのソフトウエアが起動。設定ファイルやサービスに必要なソフトウエアを自動的に見付けて読み込む。現地作業の省力化に役立ちそうだ。

 (3)は社内ネットワークにつながったパソコンやスイッチを遠隔から管理できるようにする機能。ネットワークに新しくつながれた端末を発見したり,セキュリティ・ポリシーに違反した端末をネットワークから排除したりする。

 いずれもセンター側から交換可能なソフトウエアで実現しており,装置を変更することなく,新しいサービスを追加できる点がこれまでと異なる。3種類のサービスは既に内部的には試作を完了しており,2010年度以降できるだけ早く商用化する。現在,ホームICT基盤とは切り離した形で開発しているが,「共通バンドルやBGWの管理インタフェース仕様など共通化できる部分は徐々に取り入れる」(先端IPアーキテクチャセンタ,ケアプロジェクトの柏大担当課長)という。