以前このコラムの記事で,インド政府が第3世代携帯電話(3G)の周波数オークションのガイドラインを2008年8月に発表したことを紹介した。その後,オークションが実施されないまま時間だけが経過していたが,ここにきてようやくオークションが開かれる見通しが立ってきた。
(日経コミュニケーション編集部)
インド政府がオークションのガイドラインを発表した当初,オークションの実施時期を2008年末としていた。しかしその後,通信関連規制機関と軍部との間で周波数帯明け渡しの折り合いがつかず,そうこうするうちに世界的な金融危機が発生。外資の対インド投資を期待していた政府も,オークション実施を見送らざるを得ない状況に陥った。さらに2009年5月に下院総選挙が予定されていたことから,政府の機能自体が滞り,オークションは長らく宙に浮いた状況が続いていた。
ところが2009年8月,政府はようやく重い腰を上げ,オークションを2009年内に実施すると発表した。実に1年ぶりに公式アナウンスが出たことになる。ただ2カ月後の10月には,スケジュールを2010年1月14日に変更すると発表。さらにその計画も再度延期され,一部では「早くて2010年の8月から9月になるのではないか」との報道も出ている。再三の延期,スケジュール見直しの背景には,前述のように政府が内部での調整に手間取ったことや,景気回復に伴う外資の投資意欲回復を待とうとする姿勢があると見られる。
収入増のあてが外れたインド政府

オークションを実施する政府の狙いの一つには,外資による巨額な投資の誘致がある。3G事業に参入しようとする海外の事業者は,インドの外資規制に基づき,現地企業との出資比率26対74のジョイント・ベンチャーを設立すれば良い。この裏には,今後のインフラ整備に外資の資金力を誘導したい政府側の思いがあるのはもちろんだが,それ以外にもオークション収入や免許料収入に対する期待がある。
インドでは,通信事業者の営業エリアをサークルという単位に分けている(図1)。3Gオークションの入札もサークルごとに実施され,仮にインド全土で3G免許を取得しようとした場合は約340億ルピー(約650億円)が必要になる(表1のAの合計)。
政府が2009年10月27日に発表した修正ガイドラインによれば,3G向けに2.1GHz帯が開放される予定であり,各サークルの割り当てスロットは表1のBの通りである。いずれのサークルでもそれぞれ1スロットが,既に政府系事業者2社(BSNLまたはMTNL)に優先的に割り当てられている。このため,民間事業者が参入できる余地は表1のCの通りとなり,割り当てられる周波数帯がないサークルすら存在する。
オークション実施後,落札者は免許料を納めることになる。しかし今回開放された周波数帯は,思いのほか狭いと言えそうだ。政府にとっては,当初の想定よりも免許料収入が少なくなると見られる。