情報システムの“ユーザー企業”にとって、情報システムをどう活用すれば競争力を強化できるのか。ITベンダーやシステム・インテグレーターなどの営業トークや提案内容を見極めるうえで何に留意するべきか。ITベンダーなどに何かを求める以前に、“ユーザー企業”が最低限考えなればいけないことは何か――。

 野村総合研究所で約20年間勤務した後に、人材派遣大手スタッフサービスのCIO(最高情報責任者)を務め急成長を支えた著者が、情報システムの“ユーザー企業”の経営者・担当者の視点から、効果的な情報化のための発想法を解説する。

 前回(第11回)は、IT(情報技術)や情報システムを活用して営業業務のプロセスを「見える化」しようという取り組みが、営業部門の硬直化を招く可能性があることを指摘しました。

 今回は、よく使われる「情報システムの柔軟性」「柔軟な情報システム」という言葉について、2つの誤解を紹介し、そのうえで解決策を提示したいと思います。

誰にでも効果のあるダイエット食品はない

 第1の誤解は、ソフトウエアの「柔らかさ」についてです。ソフトウエアはその名の通り「柔らかいもの」ですが、柔らかければ何でも自由にできるというわけではありません。

 私は、情報システムを構成するソフトウエアは石こう製の像に似ていると思います。作る前であれば作りたい形にすることができますが、いったん作ってしまうと「ここを変えたい」「何かを追加したい」と言われても容易ではありません。あるいは作っている途中で、あれこれ注文をつけると石こう像はなかなか完成しませんし、作っている人たちが大いに嫌がります。もし大幅な変更を加えるのであれば、最初から作り直した方が早かったり、安かったりすることさえあります。

 第2の誤解は、各種ツールや技術についての誤解です。例えば、「情報・データを自由自在に掘り下げて縦横無尽に分析できるツール」といったものがありますが、「これさえ導入しておけば大丈夫」といったセールストークに踊らされてはいけません。

 私は、情報システムを構成するツール類はダイエット食品に似ていると思います。ダイエット食品は、誰にでも、どんな状況にでも効果があるわけではありません。失うものも必ずあります。例えば、「ある種の体質の人には効果が乏しい」「それを食べることによって自然でおいしい本来の食事を一部で放棄せざるを得ない」ということがあります。データ分析ツールでも、「統計学やマーケティング理論に関する基礎知識が無ければ効果が乏しい」「データの受け渡しをするためのインターフェースが増えてしまい、既存のデータを容易に修正することができなくなり、システム全体の柔軟性を一部で放棄せざるを得ない」といったことがあります。