情報システムの“ユーザー企業”にとって、情報システムをどう活用すれば競争力を強化できるのか。ITベンダーやシステム・インテグレーターなどの営業トークや提案内容を見極めるうえで何に留意するべきか。ITベンダーなどに何かを求める以前に、“ユーザー企業”が最低限考えなればいけないことは何か――。

 野村総合研究所で約20年間勤務した後に、人材派遣大手スタッフサービスのCIO(最高情報責任者)を務め急成長を支えた著者が、情報システムの“ユーザー企業”の経営者・担当者の視点から、効果的な情報化のための発想法を解説する。

 前回(第10回)では、売り上げが景気によって左右されやすい“ユーザー企業”にとって、IT(情報技術)活用のポイントとして「柔軟性」と「見るべき情報」があることを指摘しました。今回はまず「柔軟性」について書きます。

 硬直的な企業・組織がITによって柔軟性を獲得したなどという話は聞いたことがありません。逆に、ITによって柔軟性を失うことはよくあります。

 例えば、企業内の営業部門が、顧客との関係強化、つまりCRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)の徹底を目的とした情報システムの導入を要望することがあります。CRMシステム、あるいは営業支援システム、SFA(セールスフォース・オートメーション)と呼ばれるものです。

 営業担当者の能力にはバラツキがあり、さらに個々の営業担当者にとって「苦手な顧客」「得意ではない商材」などがあって、これが原因で機会を失う恐れがあります。そこで顧客情報を管理し、商談の進ちょく状況を管理することによって、機会損失を減らし、さらに営業担当者を育成する効果も狙いたい、こう考えたとします。

CRMやSFAが営業組織の硬直化を招くことも

 ここまでの話なら「柔軟性」とは無縁です。しかし、実は落とし穴が潜んでいます。この情報化が定着することによって、営業担当者の行動様式が硬直化し、「苦手な顧客」などの機会損失を防ぐ代わりに、「失うもの」があるかもしれません。

 例えば、景気が良くなれば需要が増え、案件も多くなり、さらに競合他社との競争も緩やかになります。新規顧客を獲得するチャンスであると同時に、固定客には納品を待ってもらうような状況も出てくるでしょう。このような状況では、顧客・案件の優先順位を決める必要に迫られます。つまり、すべての機会を拾うのは困難になるかもしれません。

 この情報化の第1の目的は、機会損失を減らすことでした。情報システムが動き出した後、営業現場の行動様式が、機会損失を無くすことにこだわってしまう可能性があります。この状況で好景気が去ったらどうなるでしょうか。機会自体が少ない状況では、機会損失を無くす仕組みはうまく機能しません。