IT技術者は、自らを取り巻く環境の変化に対応し、身に付けるべきテクノロジを選択しなければならない。そのための羅針盤になることを目指し、情報サービス産業協会(JISA)が作成するのが、情報技術マップである。今回は、情報技術に対する認知度分析や、継続利用意向分析の目的・活用方法、および2009年度の調査結果について解説する。

 JISA情報技術マップでは、2004年度の調査開始以来、様々な切り口からの調査・分析を実施してきた。基本的には、回答者が過去に携わったシステム構築プロジェクトにおいて、ある要素技術を採用したかどうか(実績)、また今後に採用するかどうか(着手意向)についての定点観測を続けている。

 これにより情報技術マップでは、ある要素技術が情報サービス市場のなかで、他の技術と比べて相対的にどの位置に置かれているか、過去からどのような進展をたどってきたかを可視化できる。また、その要素技術が、今後どのように進展していく可能性があるのか、その技術に対して技術者がどう認知し継続する意向を持っているかといったことも、調査結果の分析によってうかがい知れる。

情報技術マップから見えるもの、見えないもの

 第1回から第3回では、「ITディレクトリ」として15カテゴリに分類した127の要素技術のそれぞれが、研究期や普及・安定期、あるいは衰退期のどこに位置するのかについて説明・評価してきた。

 しかし、各要素技術の相対的な立ち位置を確認できても、今後その技術にどんな進展が期待できるのか、あるいはそれに代わり得る技術があるのかどうかについて、将来の機会や脅威の有無を含めて確認することは難しい。数年先の技術戦略や人材育成計画を検討するなど、各社の戦略立案に活用するためには、これからの変遷の可能性までを吟味できる、別の情報が必要になるだろう。

 このような要望に応えようと、JISAでは、技術者の要素技術への「認知度」や、実績ある技術の「継続利用意向」を調査・分析している。要素技術に対する技術者の認知の拡がりの大きさから将来的な市場の拡大の可能性を評価し、あるいは要素技術に対する継続利用意向および現段階での代替技術の有無を確認することで、技術マップの利用者は今後注力すべき技術なのか、逆に他の技術に注力すべきなのか評価できる。

 今回は、情報技術マップにおける認知度と継続利用意向分析について、その考え方について簡単に解説し、それぞれの調査・分析結果を紹介する。

要素技術が進展する余地があるかどうかを知る

 まず認知度分析の考え方について説明する。情報技術マップでは、情報サービス産業に従事する技術者に対して、ITディレクトリに登録されている要素技術群についてのプロジェクト採用の実績と今後の着手意向の有無を聞いている。多くの要素技術がシステム開発などのプロジェクトで、何らかのかたちで実績があるか、今後利用したい意向を示している。一方で、実績も着手意向もほとんどない要素技術もディレクトリには存在する。これらの技術はなぜ実績も着手意向も得られないのだろうか。例えば、次の二つの理由が考えられる。

理由1:技術者が担当する技術領域の対象外である用途が限定されている技術。例えば、データベース技術者は情報サービス産業には幅広く活躍しているため、データベース関連技術に対する回答は多い。だが、「ナレッジ・コンテンツ管理、コラボレーション技術」など、アプリケーション開発分野における一選択肢に過ぎない技術分野に対しては、特定の技術者しか回答できない。結果的に実績や着手意向の各指数の上限が限定されてしまう

理由2:まだその存在に気付かれていない、新しく登場したばかりの技術。普遍的な技術カテゴリに属する技術であっても、ここ数年に開発・発明されたばかりの技術は、技術が安定していない。そのため、一般のシステム開発プロジェクトでは採用されないし、メディアや技術読本などを通じた技術者への啓蒙活動が十分にできていない

 情報技術マップでは、各要素技術について「その技術要素をそもそも知っているか、あるいは採用技術としての十分な知識を持っているか」を問い、それを指数化したものを「認知度指数」と呼んでいる。これを、実績・着手意向と関連させて分析する。すると、認知度の違いから、実績・着手意向がほぼ同じ要素技術でも、情報サービス産業全体からまだ十分に認知されていない技術なのか、あるいは今後主要技術として認識されているが、まだ具体的案システム開発案件で採用するには実績が不十分として採用を見送っているのか、を比較できる。

 認知度の広がりは、技術カテゴリによっても異なる。カテゴリ別に最も認知度が高い技術と評価したい技術を比べれば、将来的な技術の認知の拡がり、すなわちその技術の市場規模を推し測ることもできる。