前回,データセンターが提供するサービスには,大きく分けて「ハウジング・サービス」と「ホスティング・サービス」の2種類があること,そして多くの場合にデータセンターの住所は公開されていないことなどついて説明しました。
さて,実際にデータセンターを利用するとしたら費用がいくらぐらいかかるのか,気になっていることと思います。今回は,ハウジング・サービスを利用する場合を例に,いくらぐらいかかるのか説明します。
ハウジング・サービスは賃貸住宅?
サーバーをデータセンターに預けることを住まいの引っ越しにたとえて説明します。賃貸住宅への引っ越しを検討しているシーンを思い描いてみてください。
引っ越しのきっかけは,進学や就職,転勤,結婚,子供の成長,今の住まいに飽きたからなど,さまざまでしょう。予算とにらめっこしながら,条件のよさそうな物件をいろいろ探しますよね。
そしてエリアや沿線,最寄り駅からの距離,間取り,築年数(建物が完成してからの年数),マンションかアパートか,もしくは一戸建てか,構造は木造なのか鉄筋なのか,といった条件で物件を絞り込んでいくことでしょう。絞り込む条件に,インターネットやCATVが使える,あるいはトイレと浴室が分離している,床下収納があるなど,付加価値といえる要素を盛り込む方もいることでしょう。よさそうな物件を何件か選んだら,部屋を下見して,最終判断を下すというのが一般的だと思います。
そして,「ココがイイ!」と決めたら契約を結び,引っ越しや家具の買い替えなどについて検討していきます。家具のレイアウトを考えるときが一番楽しいという方もいらっしゃいますよね。
ハウジング・サービスを利用するときに考えることも,住まい探しのときとよく似ています。データセンターのハウジング・サービスについて検討するきっかけは,「地震や洪水など天災へのリスク対策」,「火事や停電,盗難への備え」,「事務所の移転や拡張」,「事業拡張に伴うサーバー増設」など,会社の事情によってさまざまです。
そして,データセンターを利用する方針がある程度固まったら,次のような事柄について検討していきます。
立地
建物の耐震性
●設備
電源設備
消火施設
●警備体制
監視カメラの有無
入館や退館時のチェック内容
●機能
インターネット回線の太さ(帯域)
1ラック当たりの電気容量
どの通信会社(キャリア)を利用できるのか
(一部のデータセンターではキャリアを制限している)
●サービス
機器のレンタル
監視サービス
運用代行サービス
こうした「施設」「設備」「警備体制」「機能」「サービス」の条件を基に,要件を満たすデータセンターを洗い出します。そして,その中から有力候補となる数件を選んで,住まいの場合と同様に下見するのが普通です。
下見した中から,費用の見積もり結果も加味して,利用するデータセンターを決定します。契約を結んだら,データセンターに預けるサーバーの準備,ルーターなどネットワーク機器の手配などを進めます。
イニシャル費用とランニング費用
賃貸マンションを借りて引っ越すとなるとお金がかかるのと同様,ハウジング・サービスを利用するにもお金がかかります。ハウジング・サービスを利用する場合,お金のかかり方は大きく二つに分けられます(図1)。
一つは,1回だけかかるイニシャル費用(初期費用)です。サーバーやネットワーク機器の購入などに要するシステム導入費用,ラックや電源などの準備に要するハウジング・サービス初期費用,機器の輸送やラックへの取り付けに要する移設費用がそうです。賃貸マンションでいうと,初期費用は敷金や礼金,仲介手数料,引っ越し費用,家具や電化製品の購入費用などに相当します。
もう一つは,毎月(契約によっては毎年)かかる利用料で,ランニング費用と呼ばれます。具体的には,サーバーやネットワーク機器の保守などに要する保守費用と,ラックや電源の利用料などハウジング・サービス利用料がそうです。賃貸マンションでいうと,家賃や管理費,電気代,電話代といったものになります。
なお,システム導入費用はデータセンターを使わなくても必要なものです。規模によって金額が大幅に変わってきます。移設費用も条件によって変わりますので,ここでは詳しい説明はしません。ただし,こうした費用もかかることだけは頭に入れておいてください。
ハウジング費用の幅はなぜ広い
インターネットの検索エンジンで「データセンター」,「ハウジング」というキーワードで検索すると,ハウジング・サービス利用料についての情報も得られます。ただし,具体的な金額ではなく,「別途見積もり」あるいは「xxxx円~」というような表記がほとんどです。
金額が具体的に示されている場合もあります。1ラックで月額7万円台程度から,高額な場合は月額30万円を超えるものまであります。データセンターの立地や設備の充実度,監視・運用代行サービスの内容などによって,データセンター事業者の経費が変わってくるので,価格の幅も広くなっているのです。
例えばリコーの「ハウジングパック」の場合は,1/4ラック(9U)で電源が100V10A,監視対象が五つ,週一回の目視稼働確認,稼働状況の報告サービスが付いて月額11万5000円(初期費用も同額)になります。
次回は監視・運用代行サービスとホスティング・サービスの費用について説明します。
「災害対策と万全のセキュリティ」,「止まらない電気と安定した空調」――。どのデータセンターでも,必ずといっていいほど特徴として掲げられているうたい文句です。実際にデータセンターでは地震や火事,水害,停電などへの対策に,多大なコストをかけています。
「止まらない電気」のために自家発電機と重油の備蓄,安定した電源を供給するためにCVCF(Constant-Voltage Constant-Frequency:定低電圧定周波数),瞬断を防ぐために大きなバッテリー(電池)などを備えています。多くのデータセンターは,電力会社からの電気も2~3系統引いています。データセンターが利用者(利用会社)に請求する電気代には,これらの設備を維持していくための費用や「安定した空調」を実現するための費用も含まれているので,一般家庭の電気代と比較するとどうしても割高になってしまいます。
リコーテクノシステムズITマネージド本部 EMS運用センター EMS運用部 監視・DC運用グループ リーダー