ビジネスとITの摩訶不思議な世界を“創発号”に乗って旅する匠Style研究所。前回からは、価値の正体を追い求める旅が始まっています。今回は、前回に研究した“価値を描くこと”に引き続き、企業においてビジョンを描くことの大切さ、またその方法について旅をしていきます。

 このビジョンを描くということ自体、僕にとって形式知にできるようでできない領域であり、形式知と暗黙知の縁を探検しているような気分になります。形式知化するのは非常に有用なものなのですが、形式知にし過ぎると論理的美の虚像を追いかけてしまうのです。みなさんも、この谷底の縁をさ迷いながらの探検を楽しんでください。

ビジョンを描けない企業

 ビジョンとは、なんらかの活動(例えば企業活動)を行う際の「将来あるべき姿」のことです。前回は、ビジョンとその構成要素について図1のように示しました。最近思うのですが、多くの企業がビジョンを描けなくなってきているのではないでしょうか。

図1●ビジョンと構成要素
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 その理由としては、経済の問題、環境の問題など、様々な問題があるでしょう。しかし、これらの外的要因だけではなく、最近の日本人がそもそもビジョンを描くことが苦手になってきているのではないかと思うのです。

 企業において、ビジョンが描けないとすれば、どういう問題が起こるのでしょうか?ここでいくつか例を挙げてみることにしましょう。

【経営ビジョン】
経営者がビジョンを描けなくなると、ビジネス戦略に一貫性がなくなり、行き当たりばったりの対策しか取れなくなってしまう。

【部門ビジョン】
部門長がビジョンを描けないと、部門全体の方向性を見失い、仕事をただこなすだけの社員が多くなってしまう。

【プロジェクトビジョン】
ビジネス改善、システム開発などのプロジェクトにおいて、ビジョンが不明確であると、そもそも何がやりたかったのかという基本的な要求が分からなくなってしまう。

 このように、様々な活動においてビジョンが描けない場合、そこに参画するメンバーが方向性を見失い、やる気をなくし、クリエィティブな活動ができなくなったり、生産性を低下させたり、という結果に結びついていきます。