ビジネスとITの摩訶不思議な世界を“創発号”に乗って旅する匠Style研究所。前回は、常識を疑い、常識となっている仕事のやり方の価値を信じず、最適な手段を手探りし、新たなWhatを見つけたり、新たなHowを見つけたりすることで、論理的美の虚像を排除できることを話しました。論理的美の虚像の最終回となる今回は、価値の正体を追い求める旅になります。

 第7回第8回と、「論理的美の虚像」をテーマに旅をしてきました。それは、僕がソフトウエア開発の経験や要求開発を通して、少しずつ分かってきた人間の活動における普遍的な成功パターンから導かれたのです。一般常識を飛び越えなければ見つかりません。今回は、「論理的美の虚像」の最終回として、新たなWhatを見つけるという時に必要となるアプローチ法についてお話しましょう。

 この手法は、「匠Thinking」という名前でお客様のところで実践しているもので、よい成果を出しています。

価値の追求がビジネスの戦略とオペレーションの分離に

 僕がソフトウエアエンジニアの仕事をやっている際にいつも感じていたこと。それは、新しいソフトウエアを作成して、新たなビジネス価値をもたらしたいということです。しかし同時に、プログラムだけで新しい価値をもたらすことは、とても難しいと痛感しました。ですから、ソフトウエアを利用するユーザーに役立つソフトウエアを目指すことで、なんとか価値のあるソフトウエアを作成したと強く思うようにしていました。

 2002年頃からは、「要求開発」という分野を開拓することになり、ビジネスをモデルとして表現することに挑戦し始めました。その際に、いろんなビジネス工学やソフトウエアエンジニアリングから発展したUML(統一モデリング言語)関連のビジネスモデリング書籍などを読んでみました。しかしながら、なぜかビジネスをモデル化することのメリットを感じられないのです。

 確かに、ビジネスを業務フローなどで“見える化”して合意することは意味のあることだと感じます。しかし、そもそも対象となるビジネスの価値そのものを対象にせず、業務をフローとして表すということの必然性が分かりませんでした。多くの書籍では、ビジネス価値については説明の対象外としていたということでしょう。

 そのような疑問から僕は、業務フローをHowと見なし、その上位にあるビジネス戦略(What)と、ビジネスオペレーション(業務フローなど)を分離して考えるように自分の中で習慣づけることにしました(図1)。

図1●ビジネスの“見える化”の二面性
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 ビジネス戦略とビジネスオペレーションの双方それぞれに、異なる“見える化”が必要であり、その使い分けを意識することが、ビジネスモデリング(ビジネスの可視化)に必要なことだと思い始めたためです。周りを見渡してみても、両者を区別したビジネスモデリングの書籍や、区別しながらつなげて考える手法は見あたらなかったのです。