問題が起こらないプロジェクトはない。しかし,「問題の発生速度 < 問題の解決速度」という状態である限り,問題は確実に減少し,プロジェクトは健全な状態に向かう。『プロジェクトの“健全度”を測るモノサシ』シリーズの最終回として,問題に対する解決行動を迅速かつ確実に実行するためのコツを紹介する。

阿部 真也
マネジメントソリューションズ マネージャー 中小企業診断士


 今回はいよいよ,『プロジェクトの“健全度”を測るモノサシ』で述べた最後のポイントである,「問題に対する解決行動が迅速に実行されているか」について考えていきたいと思います。

 前回の『情報に優先順位を付ける“確かなやり方”』では,「プロジェクト内で吸い上げた情報に対して,いかに優先順位を付けるか」という点について考えてみました。今回は,「優先順位が付いた情報をいかに解決していくか」を取り上げます。もちろん,解決する順番としては,トリアージによる優先順位(重要度)が高いものからです。

【プロジェクトの健全度を測るポイント】
情報の鮮度と質が確保されているか
 問題が直ちに顕在化し,コミュニケーション・ライン上で正確な情報が迅速に意思決定者に伝わっている。

情報のトリアージによるタグ付けが行われているか
 重要度や緊急度に応じて,問題解決の優先順位が付けられている。

問題に対する解決行動が迅速に実行されているか
 解決に向けた意見が活発に交わされ,決められた実行者が期限までに解決行動を迅速にとっている。

 では具体的に,どうやって解決していけばよいのでしょうか。本稿の前半では,解決策がなかなか見つからず,困った時にとるべき方法を紹介します。後半は,解決策が分かっていながら,実際には行動に結びつかないケースへの対処法を取り上げます。

“ポジティブ”に考えて解決行動を導き出そう

 まずは,解決策がなかなか出てこなくて,困ってしまった場合にとるべき方法を考えてみましょう。このような状況で一番まずいのは,考えすぎて行動に移れず,問題の解決速度がスローダウンしてしまうことです。

 解決策が見つからないと暗い気分になりがちですが,一歩一歩進むことで“ポジティブ”な発想を引き出すことが,困難な状況を打開していくカギになります。以下の(1)~(5)は,その基本的な手順となります。

(1)問題が解決された状態(ゴール)を描く
(2)ゴールに対して,現状はどの程度できているかを考える
(3)解決に役立ちそうなモノ,ヒト,コトを考える
(4)解決に近づく小さな行動(すぐ実行できそうなこと)を考える
(5)行動を振り返り,繰り返す

 では,具体的にそれぞれのステップを見ていきます。

ステップ1◆解決のゴールを描く

 課題管理やリスク管理の現場でよく見かける過ちは,「何ができたら,それが完了したことになるのか」(完了基準)を明確にしないまま議論や対応を進めてしまうことです。このような状態では,問題はなかなか解決しません。まず「問題が解決した状態」とはどのような状態なのか,どうなっていれば解決したと言えるのか,をよく考えてみることが大切です。

 このとき,完了基準だけでなく,解決したときに関係するステークホルダーがどういう状態になっているのかを併せて考えてみましょう。こうすることによって,解決行動を導きやすくなります。

 例えば,そのステークホルダーがどのような形であれ「Yes」と言ってくる結果となればよいのか,それとも気持よく解決策に賛同してくれる方がよいのか。それによって,その後の関係や業務のやり取りも変わってくるでしょう。つまり,その問題にかかわるステークホルダーにとって,どのような解決であればよいのかを考えることが重要なのです。まずはそれを考えながらゴールのイメージを描きます。

 また,内容が複雑であったり,問題解決のゴールが遠く感じられるような場合には,これが解決したら「上司からよくやったと褒められている」とか「同じチームの人に感謝される」「重荷がなくなってすっきりし,朝,職場に来るのが楽しくなる」など,“ポジティブ”な視点で解決後の状態を想像してみましょう。そうすることで,問題解決に対し前向きな解決策が思いつくことがあります。

ステップ2◆現状をスケーリングする

 解決しなければならない問題が大きかったり難易度が高かったりすると,「到底解決できない!」とさじを投げたくなる場合があるものです。そのようなときは,前述した解決後のイメージをポジティブに想像した上で,それを「10」の状態と仮定してみましょう。さらに,全く解決していない状態を「1」とします。では,現状はどのくらいのレベルにあるのか。それを考えてみることにします。

 このようなやり方を「スケーリング」と言います。実際にスケーリングしてみると,「到底解決できない!」と思うような難しい問題でも,全く進んでいない「1」の状態ではなく,「2」や「3」である場合が意外と多いことに気付きます。こうすることによって,現在の位置をより客観的に再認識でき,その後の解決行動が思いつきやすくなります。

 次に,スケーリングした結果,「どんな理由でその値になったのか」を考えてみましょう。つまり,現状が「1」ではなく,意外にも「2」や「3」だと思った理由を明確にするのです。このような視点を持つことにより,全体としては解決に向かって進んでいるように見えなくても,あまり気づいていなかった部分で進んでいることを再認識できます。

 例えば,「Aチームが頑張っているので,そこでの検討が進めば少し解決策が見えてくる」といったことに改めて気付くかもしれません。この場合,できていないことではなく,「できていること」に目を向けることが重要です。なぜなら,できていないことに目を向けると,せっかくポジティブな視点で考えていたものが,「やはりこの問題を解決するのは難しい」と思ってしまい,逆戻りしてしまうからです。これでは問題解決のスピードは上がりません。

 「ゴールの状態(10)まで,あと8もある」と考えるとゴールがとても遠く感じられますが,それとは反対に「できている部分が2もある」と考えれば前向きにとらえることができます。単純なことですが,この違いがもたらす心理的な効果は大きく,「意外にできている」と気づけば,解決行動を思いつきやすくなります。