プロジェクト内で「鮮度」と「質」の高い情報が活発に流通するようになったら,意思決定を迅速化するために,それぞれの情報をトリアージ(優先順位付け)する必要がある。日常的に行っていることだが,情報の種類によって適切な評価基準を設定しているだろうか。みなさんの現場で実施しているやり方を点検してみてほしい。

阿部 真也
マネジメントソリューションズ マネージャー 中小企業診断士


 見えないところで“病魔”がプロジェクトを蝕んでいたら大変です。前々回の『プロジェクトの“健全度”を測るモノサシ』から引き続き,プロジェクトを健全な状態に保つための取り組みについて述べていこうと思います。そのポイントの1つは,前回の『メンバーの報告・提案意欲を萎えさせるもの』で紹介したように,プロジェクト内で「鮮度」と「質」の高い情報を活発に流通させることです。

【プロジェクトの健全度を測るポイント】
情報の鮮度と質が確保されているか
 問題が直ちに顕在化し,コミュニケーション・ライン上で正確な情報が迅速に意思決定者に伝わっている。

情報のトリアージによるタグ付けが行われているか
 重要度や緊急度に応じて,問題解決の優先順位が付けられている。

問題に対する解決行動が迅速に実行されているか
 解決に向けた意見が活発に交わされ,決められた実行者が期限までに解決行動を迅速にとっている。

 今回は,そうして得られた多くの情報に対して,正しく優先順位を付けるための考え方を話します。「優先順位付けなら,いつもやっているよ」という読者も多いと思いますが,情報の種類によって評価基準が異なります。やり方を間違えると本当に必要な情報を葬ってしまうことになりかねません。現場で実施している優先順位付けの手順をもう一度点検してみてください。

「行動」と「事象」の違い

 ところで,プロジェクトで管理する情報とは,誰にとっての情報でしょうか。簡単に言うと,「プロジェクトにおける何らかの意思決定をする人」のための情報です。意思決定をするためには,良いことも悪いことも把握できていないと適切に判断できません。

 一方で,情報が多すぎても,それらを吟味し結論を導くまでに時間がかかってしまいます。そこで「情報のトリアージ(優先順位づけ)」が重要になります。適切にトリアージされた情報であれば,意思決定者は迅速かつ正しく判断できます。

 情報のトリアージを始める前の準備として,その情報が「行動」なのか「事象」なのか,大まかに分類しておく必要があります。

 「行動」とは,「いつまでに何をやらなくてはいけない」といったWBS(Work Breakdown Structure)のタスクや,ToDoとしてリストアップされているアクションなどです(図1)。一方,「事象」は表面に現れる出来事です。それが過去に起こったことであれ,今起こっていることであれ,あるいは起こりそうなことであれ,何らかの「行動」の結果,出来事が表面化して「事象」となります。

図1●情報のトリアージを始める前に,当該情報が「行動」なのか「事象」なのか,大まかに分類しておこう
図1●情報のトリアージを始める前に,当該情報が「行動」なのか「事象」なのか,大まかに分類しておこう

 「行動」については,それまで認識されておらず新たに実行が必要なものであれば,WBSやToDoリストなどに追加すればよいでしょう。また「事象」である場合には,共有情報(報告),課題,リスクなどとして取り扱えばいいことになります。

 たまにこれらが混同されて,課題やリスクと言った「事象」を管理すべきものの中に,タスクやToDoといった「行動」が混ざっている状態が見受けられます。まずは最初の段階として,それが「行動」なのか「事象」なのかを意識して区別する必要があります。もちろん課題やリスクから発生する「行動」もありますが,対応プロセスの記録という意味を除いては,それらは前述のWBSやToDoで管理すべきです。

 「行動」と「事象」を区別できたら,いよいよトリアージを始めましょう。

「行動」のタグ付け

 行動については,どのようにトリアージすればよいでしょうか。その基本的な考え方はシンプルです。まず,その行動を実行するのがどの組織なのか,またその中の誰が実行するのかなどによって分類する必要があります。そして通常は実行期限が設定されるものが多いと思うので,その期限に応じて優先順位を付けます。

 優先度が同程度であったり,明確な期限がなかったりするものの場合には,その影響度に応じて優先度を設定します。この場合の影響度とは,「後に続く行動(タスクやToDo)が,当該行動にどの程度影響を受けるか」「それが1人なのかチーム全体なのか,またはプロジェクト全体なのか」といったことです。

 このように行動の優先順位付けは,その設定された「実行期限」「影響度」に基づいて行います