2009年3月期の決算では,NTTが営業利益で日本一になる見込みだ。世界的な不況で業績を悪化させる企業が多い中,NTTは1兆円以上の営業利益を確保する。まさに「不況に強いNTT」だ。

 ところが世間一般にもNTT自身にも,NTTの利益日本一を高く評価する風潮はあまりないように思う。もちろん,NTT自身が急速に業績を伸ばしたわけではなく,昨年度までトップだったトヨタ自動車が赤字になったから日本一になったという事情がある。

 それにしても,もう少し不況に強いことをアピールしてもいいのではないか。こう思ってしまいくらい,NTTは謙虚だ。2月5日に会見したNTT持ち株会社の三浦惺社長は,「我々にも不況の波が出始めている」と,むしろ不安感を強調した(関連記事)。

 世間一般でみても,利益日本一になるNTTを“リスペクト”する声は少ないように感じる。筆者が「こんなに不況なのにNTTは1兆円も利益を出すようだ」と周囲に話を振ると,多くの人が「そんなにもうけているなら,通信料をもっと安くしてほしい」と言う。

 一方,「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングや「Wii」の任天堂が好調だと報道されると,「すごいね」「工夫すると不況でも利益が上がるんだね」と感心する人が多い。「もっと価格を下げるべき」という意見はほとんど聞かない。

サービスの魅力が分かりにくい

 利益日本一の企業であるにもかかわらず,なぜNTTはリスペクトされないのか。そしてNTT自身も,その強さをなぜアピールしないのか。筆者は新刊書籍『NTTの深謀~知られざる通信再編成を巡る闘い』(日経コミュニケーション編,2009年3月9日発行)を編集しながら,その理由をずっと考えてきた。

 『NTTの深謀』では,NTT自身が強さをアピールしない理由として,規制の問題や,関係者が“2010年問題”と呼ぶNTTグループの組織問題の議論の影響が大きいのではないかと分析している。強さをアピールしないだけでなく,この1年のNTTには明るい話題が少ない。

 光ファイバ・サービスの契約数は伸び悩んでいる(関連記事)し,2008年3月に開始した新サービスのNGNはNTT自身が認める“スモールスタート”。NGNはエリア限定で開始したうえ,サービス内容は既存サービスとほとんど変わらず,一般には認知度が低い。

 このようにサービスの革新性や魅力がユーザーから見えにくいことが,利益日本一のNTTがあまりリスペクトされない理由ではないだろうか。前述した「Wii」の操作性やユニクロの「ヒートテック」素材の肌着には工夫や驚きがあった。ユーザーが手にとってみたり,欲しくなったりする。ユーザーが製品の魅力を評価しているから,値下げしろとはあまり言わないのではないかと思う。

 NTTドコモの「iモード」や定額インターネットの先駆けとなったNTT東西「フレッツ」は魅力的なサービスで世の中に大きなインパクトをもたらした。だが,どちらも1999年に始まったサービスだ。10年も経てば,魅力も当たり前のものになる。サービス内容に大きな魅力を感じなくなり,毎月料金を支払っているとなれば,「もうけすぎ」「値下げしろ」という話になってしまう。

 利益日本一で,IT業界を引っ張っていくような企業がリスペクトされないという状況は,あまりに寂しいと思う。NTTグループの研究開発費は2007年度で約2700億円。同時期のKDDIが約200億円,ソフトバンクが約10億円であるのと比べると,サービス開発にかけられる体制も体力も兼ね備えている。NTTにはぜひ,ユーザーにリスペクトされるようなサービスを出してもらいたい。