1960 年生まれ,独身フリー・プログラマの生態とは? 日経ソフトウエアの人気連載「フリー・プログラマの華麗な生活」からより抜きの記事をお送りします。2001年上旬の連載開始当初から,現在に至るまでの生活を振り返って,週1回のペースで公開していく予定です。プログラミングに興味がある人もない人も,フリー・プログラマを目指している人もそうでない人も,“華麗”とはほど遠い,フリー・プログラマの生活をちょっと覗いてみませんか。
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 どんなに小さな企業であっても,システム開発で飯を食っているのであれば,飛びぬけて優秀なエンジニアが少なくとも1人ぐらいは在籍しているはずである。そして数々の仕事をこなすうちに,そうした人たちが作ったソフトウエア資産,例えば開発の際に常用するツールやライブラリなどといったものが蓄積されていくに違いない。

 その企業が,もっぱら受託開発で稼ぐことにしか興味がないのであればお話はここでおしまいである。しかし,大抵の場合は「このソフトウエア資産を元にして,もっと楽にビジネスを展開できるのではないか」と考えるようになる。ツールやライブラリの完成度が高ければ,それらをそのままパッケージにして販売することを考えるかもしれない。もしくは,何らかの技術的ノウハウが蓄積してきたので,それをソフトウエア・パッケージというかたちで世に出そうとするケースもあるだろう。

 しかし,ソフトウエア・パッケージのビジネスというのは,そんなに魅力的なビジネスなのだろうか。

「パッケージの開発をしたいって? 間に合ってます!」

 受託開発というのは,文字通り誰かの要望を受けて作るタイプの仕事である。開発費用は顧客が持つわけだから,顧客ごとの細かい要件に応えなくてはならない。ツールやライブラリといった「ベースになる部分」がある程度残るとはいえ,開発側からすれば個別対応の部分は毎回作り捨てである。

 これに対して,パッケージというのはいわば,誰に頼まれることもなく,自分で勝手に作るタイプの仕事である。できあがったものを「こんなんありまっせ」といって売り歩くわけだ。その商品があたりさえすれば,受託のように毎回苦労することもなく,継続的に売り上げを確保できる。そう思うから「パッケージ・ビジネスを展開したい」と考える人が後を絶たないのであろう。

 私がまだ20代のころ,それは確か2度目の転職を決意したときであった。それまでの業務は,大手製造業を相手にした派遣または受託開発。当時考えてもかなり保守的なところであった。私がおもしろそうなアイデアを思いついても,発注元のエンジニアが咀嚼(そしゃく)できないものは却下された。えらそうな言い方になってしまい申し訳ないが,発注元エンジニアの想像力を上限として,技術レベルが頭打ちになってしまうのである。技術先行スタイルの私としては,これではつまらない。そこで,パッケージ開発の企業に勤めれば,もう少し楽しいはずだと考えたのだ。

 そこで,当時パッケージ販売で有名だった企業をいくつか回ってみた。その結果,あることがわかった。面接でこちらから質問をしてみると「実はパッケージ販売は企業の認知度を高めるために看板としてやっているだけで,実際に稼いでいるのは受託開発チームである。だから募集しているのは受託開発のスタッフだ」とか,「オリジナルは海外で開発したもので,うちは国内向けにローカライズしているだけ」といった企業が大部分だったのである。

 もっとも,「UNIXのカーネル・コードを読んだことがあって,UNIX専攻で博士課程まで行ったレベルの人でないと採用対象にはならない」と言う企業もあったぐらいだから,私のようなバックグラウンドの乏しい青二才にはパッケージ開発の担当は無理と判断されて,門前払いを食ったのかもしれない。あるいは本当に,パッケージ開発にたずさわっている担当者はほんのわずかで,それだけで十分足りていたのかもしれない。

売れなかったら困るが,中途半端に売れるのも面倒

 しかし私はめげずに,根気よく転職活動を続けた。そして,ついにオリジナルのパッケージ・ソフトウエアを開発・販売している企業に開発担当として採用してもらえることになった。この企業には5~6年ほど勤務し,おかげでいろいろと見聞きすることができた。

 当時パッケージといえば店頭販売が主であった。しかし,ソフトウエアを作ってパッケージングし,店に並べておけば売り上げが立つというものではない。量販店に置いてあるパッケージを見れば「自分が作ったソフトウエアもこんな風に売れたらいいのに」と思うかもしれない。しかし,認知度も低く,それほど需要もないソフトウエアが,一体どれだけさばけるものだろう。数万円もするものだったらなおさらである。開発に3人月かかったとして,パッケージングや流通にかかる経費まで考えると,何本売れたら開発費を回収できるかを考えてみるとよい。

 ぜんぜん売れなかったらもちろん困るが,中途半端に売れるのもまた面倒なものだ。顧客からの問い合わせに対応するためのサポート・センターが必要になったり,不具合修正やアップグレードのために常にエンジニアを確保しておかねばならず,けっこう大変である。「パッケージはコピーして売ればOK」と思い込んでいる人がいたら,それは勘違いである。店頭販売は意外と儲からない。

 それなら,というわけで大手企業に大量導入を持ちかけてみたり,ハードウエア・ベンダーと組んでパソコンにバンドルして配布してもらうように頼んで,大量販売を試みる。もちろん,そう簡単に採用されたりはしないだろう。しかし,もし採用されたとしても,なかなか目論見どおりにはいかない。たいていの場合は,やはり儲からないからである。次回は,「なぜ儲からないのか」という理由と,「ではどうすれば良いのか」を考えてみようと思う。