遠藤 紘一
リコー 取締役副社長執行役員CSO兼全社構造改革担当

 前回(第3回)では、現場の改善・改革活動が、本質的な解決をせずに、手早く処置ばかりを行うことになりがちな理由として主に2つを説明した。第1に、処置の手際がいい部下ばかりをついつい褒めてしまう上司の存在。第2に、不具合を掘り下げる経験不足の問題だ。特に、第2の理由について詳しく説明し、「What(現象)」がよく分かっていないうちに「Why(原因)」を急いで考えてしまわないよう「TTY(「何が」の後に「なぜ」が来る)」という標語を作って啓もうしていることや、経験を積む場を設けて鍛えていることを紹介した。

 今回は、本質的な解決に部下を向かわせるうえでマネジャーが果たすべき役割について詳しく解説したい。たとえ、現場の人材に問題を掘り下げるのに十分な知識やスキルがあったとしても、評価を下す上司の振舞いかんで、問題解決への取り組み意欲は大きく変わる。

頭のいい部下ほど本質的な活動をしない

 基本的に、頭のいい部下ほど本質的な問題解決の活動はやりたがらないものだとマネジャーは心得ておいたほうがいい。ここでいう「頭のいい人」とは、「目端が利く人」であり、「褒めてもらおう」という意欲が高い人である。自分のスキルを磨く意欲があり向上心は高い。問題が発生した時の処置の手際がよく、頼もしい人材に見えることが多いはずだ。その一方で、上司から褒めてもらえない活動を軽視し避けたがる傾向が強い。

 例えば、ある改革活動をやりきって成果を出すのに3年ほどかかりそうだとしよう。頭のいい人は以下のように考えてしまう。「上司から認められるような成果が出始めるのは一体いつからなのだろう」「そんな長期間の活動しているうちにもし自分が異動して、活動を引き継いだ後任の人に手柄を横取りされてしまったらどうしよう」「そもそも3年も先に成果が出たとしても上の人たちは本当にそれを認めてくれるだろうか」

 表向きは別な理由を挙げて、頭のいい人は活動への参加を避けるかもしれないが、本音はおおむねこんなところにある。それをとがめたところで、らちは明かない。まずマネジャーは、自分の行動を冷静に振り返ってみてほしい。自分自身にこうした考え方を助長する面がなかっただろうか。例えば、前回でも触れたように「対策を手早く打つ人」ばかりを高く評価する行為などがこれに相当する。あるいは、地道に改善を進めている人に対して「何だ、そんな事にぐずぐずと時間をかけているのか」という態度を見せたことはなかっただろうか。じっくりと本質的な問題を突き止めて解決するべき活動から自分自身も距離を置いてしまい、誰かの宿題にして勝手にやらせるようなことはなかっただろうか。これらすべてが、本質的な解決をやりたがらない部下を“育成する”ことにつながる。

図1●日常の改善が基本
図1●日常の改善が基本
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 ちなみに、本連載で第1回から事例としてひも解いている「Σ-E(シグマ・イー)システム」の開発では、生産打ち切りにならないような部品情報をデータベース化する作業に着手したのは1992年で、それが改版費用の削減などにつながって表彰を受けたのは3~4年後だった。もちろんデータベースが完成したのはもっと早かったが、大きな成果として認めてもらうのには時間がかかるものである。