サービス領域については,携帯電話とクラウド・コンピューティングの融合によって拡大する。ユーザーが日常的に使う電話帳やメールなどのデータだけではなく,メールや通話などの履歴,GPS(global positioning system)などのセンサー情報を端末からサーバーにアップロードし,一方ではサーバーから必要な情報を随時受け取る(図1)。

図1●携帯電話とクラウドが融合
図1●携帯電話とクラウドが融合
携帯電話の各種センサーで取得した情報を取得し、事業者がデータを記録。クラウド上で処理した上でユーザー属性に合わせた情報を配信する。

 端末からライフログを収集し,行動や属性に沿った有益な情報を提供するというコンシェルジュ・サービスは,NTTドコモやKDDIが2008年冬に開始した(関連記事)。今後の展開についてNTTドコモの渡邉信之プロダクト部技術企画担当部長は「携帯は常に身に付けているものだけに,各種センサーを使って温度,湿度,脈拍,体温などの生体情報を取ることが可能だ。体重計などフィットネス機器と連携するなどサービスの拡大を模索している」とする。

 メールや電話帳だけでなく,生体情報や行動履歴までも記録されるとあっては,まるで監視されているような違和感があるという人も多いはずだ。それでも「グーグルのサービスは,検索履歴などプライバシ情報に基づいた広告を表示しているが,その代わりにユーザーは有益な情報を得ている。サービスが便利であれば,違和感を持つ人は少なくなる」(森川教授)。ユーザーが不快に思うか便利と見るかは,サービスの内容次第と言えそうだ。

モバイルの専門家に聞く:
ライフログ活用でグーグルに先手を

森川 博之
森川 博之
東京大学教授
工学博士
写真:新関 雅士

 ネットワーク上に認証と課金のプラットフォームを作り,魅力的なサービスを構築していく。この構図は,NGN(次世代ネットワーク)のような固定通信でもモバイルでも変わらない。携帯電話事業者には,ライフログなどの新サービスをどう作り上げるかを期待したい。

 米グーグルはAndroidを開発し,米国では無線周波数を取りに行く姿勢も見せた。リアルの世界でライフログの情報を集めたいと考えているはずだ。携帯電話事業者にとって,グーグルは大きな競合相手。現状でグーグルが入手できていない情報を握っているのだから,その状況を生かすべきだ。

 ライフログによるサービスには可能性がある。10年後には端末から脈拍など生体情報を常に把握して,予防医療に役立てるサービスが登場するだろう。数年以上の長期間の血圧測定データがあれば健康管理のための貴重なデータになるという。常に身に付ける携帯電話だからこそ実現できるサービスだ。

 携帯電話に加速度センサーを搭載し,その情報を分析すれば,立っているか,座っているかなど,ユーザーの行動が分かる。どんな乗り物に載っているかも区別できる。実験では,JRと地下鉄を見分けることも可能だった。

 これらのデータを利用して,人の行動パターンを「見える化」してくれるサービスが登場するだろう。ある企業の実験では,腕時計型デバイスに加速度センサーを家族全員に付けたところ,お母さんは朝早くから動いていることを家族が知るようになった。それを見たお父さんや子供が家事を手伝ってくれるようになったという。

 総務省の電波有効利用に向けた研究会に参加しているが,政策を固める前には,電波も「見える化」するべきと提案している。基地局などにセンサーを設置し,どの場所で,どの周波数帯が使われているかを分析すれば,有効利用の指針が見えてくるはずだ。