ユーザー企業内でPMO組織を立ち上げるには,いくつかの困難や弊害を伴う。だが裏返せば,それらに正しく対処することが成功のポイントでもある。PMOが単なる“管理屋さん”に陥らないようにするには,PMO自身が高い意識を持ち,さらにプロジェクトの関係者にも伝播・定着させていく取り組みが重要だ。

高橋信也
マネジメントソリューションズ 代表取締役


 前回は,プロジェクト管理情報ネットワークを構築し,課題のエスカレーション・プロセスを定着させる点について述べました。これらのポイントをクリアすることができれば,社内PMO(プロジェクトマネジメントオフィス)と各プロジェクトのプロジェクトマネジャの間で,人的関係が密になるでしょう。そして,「プロジェクトマネジャが頼りにするPMO」としての存在価値が生まれます。

ポイント(3)プロジェクト管理の必要性を“腹落ち”させる

 そんな「頼りになるPMO」が活躍すべき場は,もちろん報連相(ほうれんそう)の場面だけではありません。プロジェクト内の「意識合わせ」や「カルチャー作り」という場面でのサポートも,社内PMOの役割の1つです。

 例えば,プロジェクト内の管理が徹底されていないと,そもそもプロジェクトマネジャ自身が情報収集に手間取ることになり,多くの時間を割かなくてはならなくなります。そこに「プロジェクトマネジャを組織的に支援する」というPMOの存在理由があります。社内PMOは標準的な管理プロセスを持っているでしょう。それをプロジェクトの現場まで落とし込んでいくためのサポートをすべきです。

 その際,ただ「必要だからやってくれ」「そういう決まりだから」という理由で説明しても現場は動きません。ただでさえ現場にとって「管理は面倒なもの」なのですから,プロジェクト管理の必要性をきちんと“腹落ち”させなければなりません。その一押しが重要なのです。

 現場で管理をしっかりやることで,「いかにプロジェクトが可視化」され,「いかにプロジェクト内外のステークホルダーとの調整がうまくいくようになるのか」ということを社内PMO,プロジェクトマネジャの両者が十分に説明すべきでしょう。加えて,PMOが日々の管理業務を通じて現場に確かな理解を促す必要があります。

ポイント(4)PMO側スタッフのマインドセットを変える

 ユーザー企業の社内PMOが機能不全に陥る原因の1つに,社内PMOの「マネジメント意識」の問題があります。社内PMOの組織的位置付けなどとも関係した,やや複雑な問題です。しかし,PMO側スタッフが本来の基本的な役割さえ理解できれば,彼らの行動は見違えるほど変わります。

 社内PMOの機能を担う組織は「品質管理部」「プロジェクト管理部」などの名称で呼ばれることが多いでしょう。組織図上は「社内管理部門」という位置づけになっています。所属するスタッフも,必ずしも現場での経験が豊富というわけではなく,プロジェクト側から見るとスキル面で見劣りしてしまうことが多々あります。そういう場面でPMOスタッフが萎縮したり,“管理屋さん”としての仕事に閉じこもってしまう可能性があります。

 しかしながら,PMOスタッフはプロジェクト要員の代替ではありません。PMOスタッフには固有の任務があることを,肝に銘じておくべきでしょう。

 組織的プロジェクトマネジメントを実行していくために,たとえPMOスタッフのスキル・経験が乏しくても,やれることはたくさんあります。PMOという立ち位置でプロジェクトを観察した場合,プロジェクトの「リスク」や「ステークホルダーとの関係」などは,プロジェクトの専任メンバーよりもずっとよく見通せるものなのです。

 このコラムでも以前述べたように,PMOは管理責任を負うのではなく,説明責任を負うべきです。したがって,PMOスタッフとして「プロジェクトを見る目」を養う必要があります。そのために必要なことは,プロジェクトマネジメントの理論を学ぶことではありません。「マネジメント」という立場に必要なマインドを持つことです。